ブルース〜ハムバッキングピックアップで歪み切った音でやり切った男、ゲイリームーア
ブルースといってもその歴史はとても古く、最初期のブルースマンはアコースティックギターでブルースを弾いていた。
最古のブルースについて自分は詳しくないが、有名なのはロバートジョンソンだろう。
その後エレキギターが普及しエレキギターを使用してブルースマンとして有名になったのがB.Bキングやアルバートコリンズである。しかしながらビルボードチャートの陰に隠れながら一般的な人気を得ることがなかったのがブルースミュージシャンの現実であった。
しかし1980年頃にブルースという音楽を一気にポピュラーな音楽に押し上げたギタリストが登場する。それがあのスティーヴィー・レイ・ボーンである。
彼が有名になる前に注目していた超大物ミュージシャンの1人がデヴィット・ボウイである。
彼はヒットアルバム、レッツ・ダンスの数曲において彼をレコーディングに招きソロギターを任せたことがスティーヴィーのその後の成功のきっかけになったと言っても過言ではない。
その後スティーヴィーはメジャーレコード会社と契約し、ブルースギタリストといえばスティーヴィー・レイ・ボーンと誰しもがイメージするほど彼の名声かはとどろいた。
惜しくも30代前半で飛行機事故で無くなるのだが、それまでの間のプレイ、リリースしたアルバムは高い評価を受けている。
彼のプレイはとにかく派手だった。それまでのブルースギタリストがやらなかった様なペンタトニックスケール上での速弾き、そしてジミ・ヘンドリックスから受けた影響を隠すことなくプレイに取り入れた彼のプレイスタイルはそれまでブルースに興味がなかったオーディエンスを惹きつけた。彼は間違いなくブルース界の革命児であった。
前置きが長くなってしまったが本題に進みたいと思う。
スティーヴィーはストラトキャスターが愛器であった。そのピックアップはシングルコイルである。そのせいかブルースギタリストはストラトもしくはシングルコイルのギターを使うのが王道であると印象付けたのは事実である。
しかしスティーヴィーの没後、ハンバッキングピックアップを搭載したオールドレスポールを使い歪み切ったギターサウンドでブルースに挑んだギタリストが現れた。そう、あのゲイリー・ムーアだ。
ゲイリーはブルースロックにおいてそのプロとしてのキャリアを17歳位でスタートさせ、その後ジャズロックを経てハードロックに挑み一定の商業的成功を収めたあとにそのキャリアをブルースに移した。
ゲイリーのサウンドはスティーヴィーとは違いレスポールに搭載されたハムバッキングピックアップからアンプに流し込まれるシグナルをハードロック期と同じくらいに歪ませたサウンドでブルースを弾きまくった。
シングルコイル搭載のストラトをメインギターとして、サウンド的には割と歪みの少ないクリーンなサウンドを好んで使用していたスティーヴィーとは正反対のアプローチであった。
しかし歪み切ったギターサウンドでブルースに挑んだゲイリーはブルースマンとして一定程度の成功を収めた。ゲイリーが熱望してやまないアメリカのマーケットでの成功も収めることに成功した。それがStill Got the Bluesである。もう20年くらい前の彼のインタビューでは約300万枚売れたという。
結果、ゲイリーはハムバッキングピックアップを搭載したレスポールでもブルースはやれると証明した。
思えばB.Bキングもアルバートコリンズも愛用ギターはギブソン製のハムバッキングピックアップを搭載したギターである。もっともゲイリーの様に歪み切ったトーンを使うギタリストではなかったが。
とにかくゲイリーのブルースにおける成功によって、スティーヴィーが築き上げた、ブルースはシングルコイルのギターで歪みが少なめのサウンドでやるべきだという一種のステレオタイプな概念は崩されたであろう。
ゲイリーのブルースにインスパイアされたギタリストの1人にジョン・ボナマッサがいる。彼はゲイリーと同じ様にハムバッキングピックアップを搭載したレスポールを抱えてブルースを演奏し、インタビューではゲイリーへのリスペクトを常に表明している。
ブルースは元々フリーな音楽である。ブルースはこうあるべきだという概念は必要ない。どんなサウンドでどんなブルースを弾きたいかは演奏者それぞれの想いに従って決めればいいこと。
自分はスティーヴィーのブルースも好きだしゲイリーのプレイも好きである。
でもジョン・ボナマッサの様に現在第一線で活躍するギタリストがゲイリーのブルースにリスペクトを表してくれることはゲイリーファンとしてとても嬉しい事実である。