言葉のいらない詩人、ジェフベック
これは昨年惜しくも亡くなった偉大なるギタリスト、ジェフベックの話である。享年76歳。亡くなる直前まで世界中をツアーで回っていたし親交の深かったレスポール氏のように90歳近くまで元気に活動してくれるような気がしていただけにその死はショックであった、自分自身の1番好きなギタリストだっただけに尚更だった。
ジェフベックはヤードバーズ時代にその斬新なプレイで世にその名を轟かし、自身のグループ、ジェフベックグループにおいては第1期ではブルースに根差した音楽を志向し第2期ではブラックミュージックに傾倒した音楽を紡ぎ出しその後BBAでよりハードロック的アプローチを追求してその存在感を確固たるものにした。
しかし彼は1975年にリリースした全曲インストロメンタルのアルバム、ブロウバイブロウをリリースした時から言葉を捨てた。
例外的にその後のアルバムでたまに数曲ボーカル曲をレコーディングしているが基本的に彼はインストロメンタル楽曲が中心のギタリストになった。
彼のギターが紡ぎ出すメロディは時を追うごとに繊細になり人が歌うニュアンスを凌駕するようになった。
人が歌を歌う時、大抵の場合伝えたい言葉、つまり歌詞を必要とする。その言葉と歌い手が歌に込めた感情が絡み合うことでききての感情を揺さぶるのである。
しかしジェフベックの歌うメロディはもはや人が歌う時のニュアンスの繊細さを遥かに超えるまでのニュアンスを持つようになっていた。
例えば恋人や肉親に感謝の気持ちを表したい時、時として言葉は必ずしも必要ではない。醸し出す空気、そして表情だけでごく身近な人に気持ちは伝わるのだ。
後年そして晩年のジェフが奏でるギターは言葉では表せない感情すら聞き手に伝えることのできる表現力を携えていた。
彼がギターで奏でるバイブレーションは歌詞も言葉もないのに人々の感性にダイレクトに伝わってくる。
だからこそ自分は彼を言葉のいらない詩人と評したいのだ。
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