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【閲覧注意】「左眼の囁き」(オクルトワームシリーズ)ホラー短編です。ご注意ください。

(小児科診察室)
新たな生活の門出を前にして、かなの母は不安に満ちた表情で、小児科医に向かって語り始めた。「新入生健康診断で、娘の左目が見えないことが判ったのです。」その声には、急な宣告を受けた母の心境が映し出されていた。

小児科医は落ち着いた口調で答えた。「お母さん、かなちゃん自身は、その事実に心理的問題を抱えている様子はありません。恐らく、生まれつき、あるいは、気付く前に視力を失っていたのでしょう。ですから、心理面での心配は必要ありません。片方の目が見えないことは、確かに多少のハンデとなりますが、個性として克服可能な範囲です。ご両親がしっかりと対応すれば、かなちゃんには何の問題もありません。」

小児科医は続けた。「たとえば、キャッチボールが苦手になるかもしれませんが、これは他のお子様同様の個性の範囲内です。かなちゃんをご覧なさい、何も気にしている様子はありません。ご両親もしっかりと対処してください。」

(過去、かなの自宅での出来事)
かなは、自宅のリビングで愛犬マロンとじゃれ合っていた。その時、マロンの声が聞こえた。「その眼を我が棲家とする代わりに、力を授けよう。」

かなは目を丸くしながら問うた。「マロンちゃん、お話しできるの?」

「痛みはない。さあ、頬と頬を合わせ、我を受け入れよ。」マロンの声は穏やかであった。

かなは笑顔で応じた。「ほっぺたくっつけるのね。マロンちゃん大好き!」と言いながら、彼女は犬と頬を寄せ合った。その時、何かがかなの左目に移り、新たな存在が宿ることとなった。

それは、恐ろしくも神秘的な力が少女の運命を変えた瞬間。見えざる力の存在と、それがもたらす影響を通して、我々は人と超自然の界の融合を垣間見る。