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『微細なる巨人たち ―mmスケール文明・科学革命史―』 1
(まえがき / パンダ船長:
様々な記事を上げてきましたが、ここから2つのシリーズは、これまでとは異なる、おそらく科学に馴染みの無い人はほぼ考えたことがないであろう、「視点」についての記事となります。最初は「すヶー瑠草体制」とは何か、2つ目は、「クオリア」。量子層重畳仮説が、何を言わんとしているのか?此処から先の2つのシリーズは、科学が歩もうとしている道の、理解の困難さと、果たして手を出して良い領域なのか、を探求します。面白い記事になると思います。自画自賛でなんですが・・・。最初は、我々のスケールが唯一の道ではない事を示し、そしてそれを理解することの困難さを披露します。イサク・ミュートンはりんごの落下」に何を発見したのか?他編宇宙の中から、一つ選んで、語ろうと思います。頭を柔らかくしてお読みください。)
第1章:放電と表面張力の時代
闇を切り裂く青い閃光。微細な放電が暗がりを照らし、その光の中で私たちの祖先は、初めて自らの姿を見たのだろう。それは今から数万年前のことだ。
放電の発見は、私たち微細文明にとって、まさに画期的な出来事だった。それまで漆黒の闇の中で、触覚と化学受容器だけを頼りに生きてきた私たちの祖先は、突如として視覚という新しい感覚を手に入れたのだ。瞬間的とはいえ、その青い光は、周囲の世界の形を明らかにした。
最古の文献『放電詩篇』には、こう記されている:
「稲妻よ、汝は闇を切り裂き、世界を我らに示す。
一瞬の光の中に、永遠の真実を映し出す。
我らは見た、この世界の姿を。
そして知った、我らの小ささを。」
確かに、放電は私たちに世界の広大さを教えてくれた。私たちの体長約1ミリメートルという大きさが、いかに小さなものであるかを。しかし同時に、その小ささゆえに、私たちは独特の世界を生きていることも理解し始めた。
古代の賢者たちが最初に気づいたのは、「表面張力」という力の存在だった。水滴の縁を歩く時、私たちの足は不思議な力で支えられる。この力は、重力とは明らかに異なっていた。なぜなら、水平方向にも垂直方向にも同じように働くからだ。
賢者たちは、この力こそが世界を支配する根源的な力であると考えた。彼らの著した『表面張力原理』には、次のような記述がある:
「すべては表面に存在する。物質と物質の境界に。そこには見えない膜が広がっている。その膜の張力こそが、世界の秩序を保つ力である。」
この考えは、当時としては画期的なものだった。なぜなら、目に見えない力の存在を理論的に推論したからだ。実際、表面張力理論は、多くの現象を見事に説明した。水滴の形状、液体の移動、さらには生物の細胞膜の性質まで。
しかし、表面張力では説明できない現象も存在した。最も顕著なものが、ブラウン運動である。微細な粒子が、何の外力も加わっていないのに、不規則に運動する現象。これは、表面張力の概念だけでは理解できなかった。
さらに、私たちを取り巻く最大の謎、巨木の存在があった。垂直に無限に伸びる巨大な壁。その表面の複雑な構造。定期的に降ってくる巨大な物体(後の時代に「果実」と呼ばれるようになるもの)。これらは、表面張力理論の範疇を超えていた。
しかし、放電の利用技術は着実に発展を続けていた。最初は単なる光源でしかなかった放電も、やがて道具として使われるようになる。鋭い放電を使えば、物質を切断することができる。また、放電は化学反応を引き起こし、新しい物質を生み出すこともできた。
特筆すべきは、放電を用いた顕微観察技術の発展である。瞬間的な放電光を、精密に加工された水晶レンズで集束させることで、極めて微細な構造を観察できるようになった。この技術は、後の時代に革命的な発見をもたらすことになる。
紀元前後には、すでに高度な文明が築かれていた。樹皮の谷間には壮大な都市が建設され、放電エネルギーを利用した様々な機械が開発された。表面張力の原理に基づいて設計された建築物は、優美な曲線を描いていた。
しかし、この繁栄の中で、違和感を抱く者たちもいた。表面張力と放電だけで、本当にすべてを説明できるのか?私たちの知っている世界の外には、何があるのか?巨木は、いったい何なのか?
これらの問いは、やがて大きな発見へとつながっていく。しかし当時の人々は、まだその予感すら持っていなかった。彼らは、自分たちの世界が、想像をはるかに超えた規模で広がっていることを、知る由もなかったのである。
1665年、その転換点が訪れる。一人の若き生物学者が、放電顕微鏡をのぞき込んだ時、歴史は大きく動き始めたのだ。