アルテオとエドガー: 正義の泥棒と追跡者の物語「狂った時計」
「狂った時計」
「狂った時計よ。エドガーを殺せ」。リー・ミンジュンの冷酷な命令は、彼の一人言葉として部屋に響き渡った。この男は巧妙な手段で一流の能力者たちを操り、自身の切り札に仕立て上げていた。その一人である世界屈指の時計職人、コンラッドは、一度リーの罠にかかり、今では彼の操り人形となっていた。
コンラッドの工房はスイスの小さな町にある。そこは世界一の時計職人たちが集まる場所で、コンラッドの能力はそこで際立っていた。しかし、彼が過ちを犯し、名も無き売春婦に心を奪われ、リーの手に落ちたのだ。それ以来、彼はリーの手の内にいる「狂った時計」として、リーの命令に従い、時には危険な任務を果たすことになった。
昨夜、コンラッドのもとに一通の手紙が届いた。「エドガーを殺せ」という短い一文と、「彼が恐怖に震え、苦しみながら死ぬ様子を見せろ」という、リーからの冷酷な命令が書かれていた。それを読んだコンラッドは、自身の全能力を駆使し、エドガーを死の罠に陥れた。
エドガーは小さな部屋に閉じ込められていた。彼の目の前には、複雑な仕掛けが施された時限爆弾が置かれ、その上には残り60分という時間を示すLEDディスプレイがあった。彼は座るしかなく、爆弾を解除するための道具は全てが手の届く範囲に配置されていた。
天井を見上げると、彼の様子を映し出すためのカメラがいくつも取り付けられていた。それらは赤い録画ランプを点灯させており、エドガーの全ての動きを監視していた。
その状況に対して、エドガーはわずかにため息をつき、頭を整理し始めた。その後、彼はゆっくりと爆弾に手を伸ばした。彼の指先は、緻密な機械のように動き、迷いや躊躇いが一切なく、まるですべての答えを知っているかのようだった。しかし、この厳しい時間制限、僅か60分という時間はエドガーにとって過酷なものであった。その場所では彼の命が賭けられていた。エドガーの額から滴る汗をぬぐう暇もなく、彼の指は素早く動き、瞬き一つすらコントロールしなければならなかったほどの緊張感がその場を支配していた。
ディスプレイは秒単位で時間を刻んでいた。「間に合った」とエドガーはつぶやき、ほんの一瞬だけ目を閉じて息を整えた。そして最後の課題、二本の配線、一つは赤く、もう一つは青。どちらを切るべきか、それはまさしく運命の分かれ道であった。
「なにか手がかりはないのか?」エドガーは過去の全てを思い出そうと試みた。しかし、思い出せるのは自分がこの部屋に閉じ込められたという事実だけで、この仕組みの全てをリーが仕掛けたと推測することしかできなかった。カウントダウンは「10秒」になり、時間は一桁の秒数にまで迫っていた。
エドガーは最後まで諦めず、必死に情報を探し、生き残る手段を模索した。ただ運に頼るのではなく、自分自身の力で命をつかみ取りたいと思った。
その時、彼の脳裏にアルテオの姿が浮かんだ。彼がここにいたら、どちらの配線を切るだろうか。その思考を巡らせていた時、彼の想像の中でアルテオが赤い配線を切る様子を見た。それは一瞬のことだった。
エドガーは決断した。彼は赤い配線を力強く引きちぎった。ディスプレイには一瞬「Game Over」と表示され、次の瞬間には「You win」へと切り替わった。
「生きている」それはエドガーが声に出した唯一の言葉で、その言葉が全てを物語っていた。
リーはその光景を大画面で見ていた。彼の指先に握られていた灰皿が怒りに任せてディスプレイに叩きつけられ、彼の眼前のデスクは彼の蹴り飛ばす力で数センチ後ろへと飛んでいった。
「どいつもこいつもクソばかりだ」リーは歯を食いしばり、その表情からは怒りが滲み出ていた。彼の心中にあるのは、エドガーを地獄に引きずり落とすことへの強い欲望だった。
エドガーはその部屋から出られず、自分の置かれた状況を整理しようとしていた。あの男、リー・ミンジュンが再び自分に試練を課すことを覚悟し、その先の厳しい運命に立ち向かうことを決意していた。
それぞれが自分の運命と闘う中で、一つ確かなことがあった。それは、リーの野望が止まることなく、そしてエドガーの抵抗もまた止まることがないということ。それぞれが自分の道を進むという固い決意が、彼らを更なる試練へと導くのだった。
「エドガーを解放しろ。」リーが力なく言った。
小さな部屋の後ろの扉の鍵が音をたてた。エドガーは、淡々と部屋を出ていった。