アルエド「東洋の神秘、エドガー・ラヴェル(江戸川羅鐘)」
「東洋の神秘、エドガー・ラヴェル(江戸川羅鐘)」
カネガタ警部。この男の姿は無骨だが一途で、単に存在するだけで周囲の視線を引きつける重力のような力がある。その目は刃物のような鋭さを秘めており、周囲の細部までとらえ、観察し、分析する。その心の中には深い正義感が満ちており、道徳的な羅針盤は常に真っ直ぐ正義の方角を指している。その手に持つ煙草から立ち上る煙は硬質な香りを放ち、それが空気中に広がると、周囲の誰もがカネガタ警部の強大な存在を肌で感じ取る。彼の日々は常に自己超越の戦いであり、その果てしない努力と精神的な成長は周囲の者たちに深い影響を与えている。
その影響を最も強く受けたのが、彼の教え子であるエドガー・ラヴェルだ。フランス出身のこの若者は冷静で理知的で、自分の信念を深く見つめ直すためにカネガタ警部との出会いをきっかけに、生活の全てを一新した。エドガーの一日は、東洋の伝統的なラジオ体操から始まる。太陽が地平線を越え、明けの光が部屋に差し込む頃、彼は身体を大きく伸ばし、軽快なリズムに合わせて動き出す。乾布摩擦で身体をほぐし、血行を促進する。その際に彼が手にする手ぬぐいは、すでに使用感でボロボロと化しているが、それが彼にとって何よりも大切なものであることは明らかだ。カネガタ警部が彼に渡したその手ぬぐいは、ただの布切れではなく、日本の精神、そして警部自身の信念と情熱を象徴するものなのだ。
その手ぬぐいを持つ手は決して緩まず、日々の訓練を欠かさない。体の柔軟性を保つために蹲踞を行い、筋肉の緊張を解くために股割りを行う。その動作一つ一つには全身全霊が込められており、その瞬間瞬間に見る姿勢はまさに彼が追求する「日本式」の美学を体現している。彼の食事は野菜中心でシンプルだが、その裏には彼が追求する健康志向、そしてカネガタ警部の教え、それが深く反映されている。好き嫌いを言うことなく、食べ物すべてを感謝の心で受け入れるその姿勢は、彼の堅実で地に足のついた生き方を表している。
彼は早寝早起きを心掛ける。太陽がまだ地平線を越える前に目を覚ますと、自身の身体と心に繊細に耳を傾け、日々の活動に備える。言葉は必要最低限に留めるが、その言葉一つ一つには重みがあり、心からの思いや真剣な視点が込められている。その少ない言葉からは彼の深い思索と洞察力が垣間見え、話すたびに周囲の空気を引き締める。
エドガーの生活は昭和の男の骨太さを反映しているが、その硬さと男らしさは彼が日没と共に寝室へと入ると一変する。彼が床につくとき、その身に纏うのはハート柄のパジャマとナイトキャップだ。硬質な男性が着るものとは思えないその姿は、少々奇妙に思えるかもしれない。しかし、その奇妙さこそがエドガー・ラヴェルという男の繊細さと、それを包み込む大胆さを象徴しているのだ。明けて暮れての日々の中で、彼の中には二つの顔が共存している。一方はカネガタ警部から受け継いだ硬質な正義感と日本の伝統への敬意、そしてもう一方は自身の繊細さと大胆さを表す寝間着を纏った、個性的なエドガー自身だ。それらは対照的でありながらも、互いに調和を保ちながらエドガー・ラヴェルという一人の人間を形成している。