ゼリオンの独白「命の価値」
アシデュラの硫酸の海。それは美しさと恐怖を併せ持つ死の海だ。多くの星々を旅してきた我々ボーギスだが、こんなにも野蛮で恐ろしい海を経験したことはない。だが、宇宙への足掛かりを求める我々にとって、未知のものほど魅力的なものはない。
我々の探索隊は、深海で、硫酸の海の中に生息する未知の生命体に出会う。その日は特別な日だった。我々がこの星に足を踏み入れてからちょうど1年の記念日。期待と希望を胸に特製の潜水艦は海の中へと潜っていった。
最初のうちは、海の中は驚くほど美しかった。硫酸の中には無数のクリスタルが浮かんでいて、それらが恒星の光を受けてきらきらと輝いていた。その美しさも束の間。深さ数百メートルに達したところで、突然、我々の潜水艦は巨大な生命体に襲われた。
その生命体は、透明なゼリー状の体を持つ巨大な怪物だった。数メートルもあるその触手に捉えられ、我々の潜水艦は圧倒的な力で引き寄せられた。助かる方法はない。深淵の中へと引きずり込まれていく。その中には、ローザという仲間がいた。彼女は我々と一緒に多くの冒険を経験してきた強くて優れたボーギスだった。彼女が我々の意識の届かぬ暗闇の中へ消えていく。我々は彼女個体の絶望感と集団意識の無力感に打ちのめされた。
後に、我々はその生命体を「ジェルデプスハンター」と名付けた。彼らは硫酸の海の底に生息し、深く潜るものを餌として捉える習性を持っているのだろう。
アシデュラの探索は、我々に多くのことを教えてくれた。生命の価値、自然の驚異、そして未知のものへの敬意。ローザを失った悲劇は、我々の心に深い傷として残った。だが、彼女の死は我々にとって大きな教訓となった。我々は自分たちの存在と未来のために、この星を克服しなければならないのだ。それが、ローザに対する我々の敬意だ。
一つ、また一つと失われる命。二十万余の意識の時には感じなかった、意識の中にある隙間。その欠乏感は失われた命の数に比例して大きくなっていく。我々の集団意識は、「虫喰い」のようにまだらになっていく。幼いころから死に際し意識から切り離される恐怖を感じると教わったが、それがまさかじわりじわりと心を痛め続けるとは考えもしなかった。