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鏡の中の音楽室 (29)

第三部 壮太の霹靂(へきれき)

第3章 鏡の中の音楽室


広春は心配そうな表情で壮太に訊ねた。

「ううん、触らなかった。だって怖いじゃん。最初にその現象を見たときは見直してみたら元の風景に戻って、俺が映っていたから目の錯覚かと思ったんだ。やっぱり塾長先生だ。いきなりこの話をしてもしっかり聞いてくれるんだね」

まず壮太はこの「鏡の中の音楽室現象」の話を仲のいい友達にした。友達たちも最初は「エンタメ」のように興味を持って聞いてくれたけれど、実際に友達たちと検証に出たときにその現象が起こらないのがわかると、手のひらを返したようにバカにされるようになった。さらに、まゆとさくらに対しても同じように話をしたが、最初は先の友達たちと同じように興味を持った乃だが、やはり一緒に検証しに行ってその現象が起こらないのがわかると、さくらもまゆもこの現象についての話題にすら触れなくなった。その後、「鏡の中の音楽室」に「女の子」がいたということをみんなに話しても全く相手にもされなくなっていき、壮太は自身の経験すら他人に話すことに躊躇するようになっていった。しかし、広春がこれまで話を聞いてもらっていた誰よりもただの興味本位だけではなく、真剣に検証しようとしてくれている態度にどこか安心し、広春の言葉に返事をした。

「で、女の子が映っていたというのはその時だったのか?また別の日なのか?そして、壮太はその女の子に見覚えはあったか?その子はどんな服装をしていた?」

広春はかなり興味がある様子を見せつつ、矢継ぎ早に壮太に質問を投げかけた。

「ちょうど2週間ぐらい前に見たんだ。始業式の次の日だったんでよく覚えているよ。」

「で、その女の子の服装や髪形は!?そして、壮太はその子に見覚えはあったのか?なかったのか?」

すかさず待ちきれないとばかりに、広春は壮太の返答に足りなかった質問をかぶせた。

「ううん、見覚えはなかったと思うんだけど、髪形は今風の髪形といってもおかしくないと思う。服装はTVで見る昭和の服装のような感じだったよ」

壮太は塾長が興味を示してくれ、そして真剣に質問してくれるのに少しだけうれしさを感じた。今までなら、友達たち、さくら、そしてまゆも興味だけ示して、詳しく何も聞かれなかったのにもかかわらず、その状況が起こらないとわかると、その後の話をしても「はいはい鏡の中に音楽室があったんだよね~女の子がいた。はい居ました」なんて必ずバカにしてきたからだ。いつからか壮太は「鏡の中の音楽室」が本当に合った現象ではなく、「自分の創作や妄想」ではないだろうかとさえ思い始めていたところ、しっかりと聞いてくれる塾長の質問からこの現象が確かに現実に起こったことであることを確信していくのであった。

「で、その女の子からは壮太が見えていたように感じたか?」

これは壮太にとっていろんな話をしてきた人たちから出ることのない質問だった。

「いいかい?3人ともしっかり頭を使うんだ!映画の画面に映っている人たちからは僕ら観客は確実に見えない。それはつながっていないから。しかし、演劇なんかでステージの明りが届くところにいるお客さんはステージの上からも見えているんだ。その関係性から考えてみると、その鏡はその昭和ぽい音楽室を映すだけの媒体であるか、向こうとつながっているかという判断材料となるだろ?これは重要な質問なんだ。壮太よく思いだしてくれ」

壮太もさくら、まゆも少しづつ理性的に『鏡の中の音楽室現象』を嘘っぽい「トンデモ話」から実際にあった事を理論的に検証するという態度に改まっていた。

「女の子がこっちを見ていたのははっきり覚えているんだけど、僕に気づいていた様子はなかったと思うんだ。何かに反応する様子ではなく、よく「なんだろ?あれ」ってボーっと見るじゃない?そんな感じでこっちをボーっとっと見ていた感じなんだ。こっちに何か合図を送っているようには見えなかったよ」

壮太のその言葉を聞き、広春は何かひらめいた表情を見せた。

「なるほど、そう考えると鏡の向こうの世界には実像や虚像ではなく、何か印みたいなものがみえていた可能性があるな…それで、その音楽室が鏡の中に見える期間の周期はどれぐらいなんだい」

広春の本気の知りたいという気持ちを感じる質問が壮太にとって、未知との遭遇をした経験がよみがえりかなりワクワクを感じてきていた。

「1カ月に1回ぐらいかな。僕も去年の9月からそこの掃除になったから気にしてない時も起こっていたかもしれないけど、今まで見たのは3回なんだ。で、一番最近見たときに女の子が見えたんだ」

この言葉を聞き、さくらが突然口をはさんだ。

「壮太の見たその現象はひょっとして毎日起こっているかもしれないけれど、そのタイミングでそこに誰もいないってパターンもあるよね。たとえば、短縮4時間授業なんか昼休みがないから、もし『鏡の中の音楽室』があ現れていてもわからない場合があるよね」

好奇心旺盛なさくらが独自の見解をはさんできた。その言葉を聞いて広春の表情には笑みが浮かんできた。

「なるほど・・・さくら!いいところに気づいたな。でっ、どうなんだ?そんな特別な時にもこの現象が起こっていたという記憶はあるのか?どうだ壮太!」

「さくらがいうようなことを意識はしたことがなかったけど、毎日同じ時間に掃除場所に行っていたから、確実に毎日起こっているわけじゃないよ。短縮授業の時や昼までの授業の時に起こっていたか、いないかどうかはわかんないや。です」

広春はこのっ壮太の言葉を聞き、さらに何かを確信したようだった。

「そうか・・・僕の予想があったっているなら、次は2月10日に起こる可能性がある。三人とも危ないから絶対に鏡に近寄るんじゃないぞ!確認するのもダメだ」

広春は一人ひとりに人差し指を向けながら念を押しながら話した。

「塾長先生!2月10日は土曜日だから学校はお休みなので確認ができませんね。校門が空いていれば玄関のガラス越しに確認はできるかもしれないですね。土曜日は少年野球のレッドビクトリーズが練習しているから校門は開いているよね?」

まゆもかなり興味が出てきて、スマホを見ながら真剣な口調で答え、壮太に向かって質問した。

「うん、今は冬トレ中の土曜日だから朝から昼1時ぐらいまでの練習時間だから多分校門は開いているはずだよ。けど俺はもう引退しているから練習には出てないけどね」

さっきまでの不仲な空気ががらりと変わり3人の雰囲気はよくなったように見えた。

「おぉ!そうか!じゃあ大丈夫そうだな。とすると次の3月10日も日曜日なので何か起こったり、大騒ぎになることもなさそうだ。問題は4月以降だな。そうなると、学年が上がるから壮太以外の子がそこを掃除するようになるな・・・・」

広春はまた立ったままの「考える人」ポーズで部屋の隅の床を見つめていた。

「塾長先生は何が起こっているのかがわかっているのですか?」

まゆは疑うことから真実を探す研究者のような気持に切り替わっていた。

「いいや。今貰った情報を精査して考えると、月に一度というスパンと昼食時間から昼休みを通して掃除の時間の一瞬だけ確認されているということを考えると、新月と南中時間が関係があるのではないかと考えただけだよ。そう考えると、その現象が重なる時間にそれが起こるかもしれないんで、安達先生に頼んで学校側の信頼できる先生を通じて確認してもらうことにする。けれどこれはあくまでも現象を追った予想であって、状況を分析したのではないので、起こる確率はかなり低いと思うよ」

広春がそう言うと3人は少しがっかりした様子を見せた。そして、その日の授業が終了しさくら、まゆ、壮太は久しぶりに大きな声で会話しながら岐路にいついた。広春は3人のほほえましい様子を見送った。

次の日の午前中、広春は勇の病室を訪ねた。


第3章 鏡の中の音楽室  完
タイトル画像は「Copilotデザイナー」が作成しました。


次回 鏡の中の音楽室 (30)

第三部 壮太の霹靂 編 

第4章 走りだした好奇心



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TSJGYM 高松進学塾塾長
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