一人バレンタイン、至福のひととき
バレンタイン。
それは各百貨店バイヤーが威信をかけて、世界から選りすぐりのチョコレートを集めてくる、年に一度のお祭りだ。
生粋のお祭り好き、そして甘いもの好きである私は、毎年この時期になると百貨店の熱気に吸い寄せられ、いくつかの百貨店を巡り、美しいチョコレートたちを財布の許す限り買い集める。(だいたい毎年予算オーバーする)
今年も伊勢丹、高島屋、西武百貨店の催事を巡ると、どこも人・人・人の大繁盛だ。
人混みをかきわけながら、ハート型の缶や花柄のパッケージの板チョコ(タブレット)、青い鉱石のようなチョコなど、名だたるショコラティエが腕によりをかけて創作したチョコレートを物色していると、「ミッシェル・ブラン」と書かれた看板の下に、ふと目を引かれたパッケージの箱があった。
白い箱に、スミレの花が黒く細いペンで描かれている。ショーケースの中の説明文を読んでみると、商品名は「Violette(ヴィオレット)」と書かれていた。世界遺産にも登録された南フランス、アルビの名産であるすみれをテーマにしたショコラだそうだ。
行ったことのないフランスの中世の街並み、そして紫色の一面のスミレ畑に思いを馳せる。
私は繊細なタッチで描かれた美しい箱がすっかり気に入ってしまい、すぐお買い上げした。スミレの花をイメージしたチョコだなんて、何とも洒落ている。
早く食べたいという気持ちをおさえ家に帰り、早速箱を開いてみる。何となくバクバクと食べる気持ちになれず、まずは眺めてみる。
小さく四角いチョコレート一切れの真ん中に、小さく紫色の欠片がちょこんと乗っている。すっと香りを嗅いでみると、ふんわりと深く、花の香りが漂ってくる。これがスミレの香りなんだろうか。
口に入れると、まずビターチョコレートがするっと溶けて、芳醇なスミレの香りが後味に残る。まるで本当にチョコにスミレが溶け込んでいるみたいに自然でやわらかくて、上品だ。
ゆっくりとチョコレートを味わいながら美味しい紅茶を飲む午後3時。幸せだなあ・・・
いつか南フランスのアルビの本店でチョコレートを買ってみたいな。そして、スミレ畑を見て、美味しいチョコレートを食べる旅行をしたい。
大切なチョコレート、毎日ゆっくり味わいながら、紅茶を淹れて一粒ずつ食べよう。そう決めて、箱をそっとしまった。
あ、その日の夜我慢できなくて、もう二粒食べてしまったのは、内緒で。