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真に理解するために ~東京ジャーミィトルコ文化センター訪問記~

ドバイ行きが近づいてきた。正月休みを利用して夫の単身赴任先を訪れる。はじめての中東訪問を前に、イスラム教への理解を深めておきたい。小春日和の日曜日、代々木上原にあるモスクに行くことにした。

正式名称は、東京ジャーミィトルコ文化センター。サイトには「年中無休」「予約は不要」「信徒以外の方もお気軽に」とある。写真撮影も基本OK。人の集まる場所で、これほど規制がないのも珍しい。敷居の低さに感心し、ガイドツアーに参加してきた。

建物はモスクと文化センターの二つに分かれている。文化センターの方から入ると、そこはトルコだった。大理石の白い床。壁面を飾るタイルには、コバルトブルーで植物文様が描かれている。

視線を移して驚いた。ベンチで軽食をとるムスリム親子。大声でビデオ通話を楽しむ外国人男性。雑多な雰囲気はファストフードの店先のようだった。

奥には、ハラルマーケットがつづいている。「ハラル認証」を受けた、つまり神に許された食品や雑貨を扱っている売店である。小さな店は客で溢れかえり、さながら夕方のデパ地下。なぜこれほどまでに賑わっているのか、不思議だった。

買い物は後回しにして、目当ての礼拝堂を探す。文化センターとモスクは、渡り廊下で結ばれている。モスクのロビーに入って、小さい目を丸くした。東京駅かと思うほど混雑している。駅のホームにある待合室のような一角があったが、満席である。どう見てもイスラム教徒というよりは観光客。とりあえず、「人気の観光スポット」ということで納得しておいた。

「ご自由にどうぞ」と書かれたチャイを片手にロビーをめぐる。壁面のガラスケースには、東京ジャーミィの歴史を物語る、白黒写真が展示されている。

ツアーまで間があったので、階段を上がり礼拝堂を見学した。靴を脱いで建物に入る。木箱から貸し出し用のスカーフを取り、頭に巻く。下界と隔離された礼拝堂は厳かな雰囲気だった。

エメラルドグリーンの絨毯が敷き詰められた大空間。天井のドームに描かれているのは、植物文様や、アラビア文字のカリグラフィー。ことばの意味は分からないが、リボンのような躍動的なデザインが美しい。ステンドグラスに日が差し込み、つかのま万華鏡の中に身を置いているようだった。

ツアーの時間になり、ふたたびロビーに降りると、人混みはさらに増していた。どこからともなく、イスラム帽をかぶった背の高い老紳士が現れる。挨拶や前置きなしに説明が始まった。

「イスラム教は、他の宗教とは違って、民族・肌の色を問わず、誰でも受け入れる宗教です」。他の宗教を否定するような物言いに違和感をおぼえたが、受け流して先を聞く。東京ジャーミィの歴史はロシア革命に遡ること、初代モスクは宮大工が手掛けたこと、モハメド・アリが2度訪れていることなど、ガラスケースの写真を掲げながら説明してくれた。

アザーンと呼ばれる、礼拝へ誘う朗誦が始まった。ゾロゾロと階段をあがり、礼拝堂に移動する。前方では、指導者のもとに男性信者たちが横一列に座っている。よく見ると、ガイドの男性もいつの間にかその中に混じっていた。起立、礼、直れ、膝立、礼、直れ。指導者の発声に合わせて、一連の動作が5回繰り返された。

礼拝堂を出ると解散となった。文化センターの2階にあるカフェに入り、トルココーヒーを注文した。余談だが、トルココーヒーは一般的なコーヒーと違う。小鍋で粉を煮出し、そのまま器に注ぐ。飲むときは、粉を沈殿させ、その上澄みをすするというもの。デミタスカップで出されたから、量にして50㏄ほどだろうか。不味いうえにコスパも悪い。これだけは、いただけなかった……。

さて、隣のテーブルには、身なりのよい二人連れの老婦人がお茶をしていた。ムスリムでも観光客でもない、「ご近所さん」といった風である。この東京ジャーミィトルコ文化センターは、宗教と観光と地域とが融合している場所だった。

わずかな時間ではあったが、イスラムの世界に身を投じ、イスラムを五感で感じた。モスクの美しさ、自由で開かれた雰囲気が、観光客や地元民を集めている。イスラムの深淵をのぞき、謙虚さが呼び覚まされた気がしている。
ガイドの男性はこう言っていた。

「イスラム教ではだれもがみな兄弟なんです。だから誰とでも握手ができるんです」と。それならば、なぜパレスチナで戦争が続いているのか。代々木上原とガザは、天国と地獄ほど違っているではないか。

地理的にも信仰的にも距離のある日本人にとって、イスラム組織ハマスとイスラエル軍による衝突は必ずしも身近とは言えない。しかし、現代を生きる者としては、無知でいてはいけない。イスラム教への理解を深めるということは、いま起きている現実に関心を持つということ。真の理解とは、無知であることを謙虚に受け止め、関心を持つことから始まるのではないだろうか。

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