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日曜劇場『海に眠るダイアモンド』第6話──「人生」を育てる、最も幸福な時間
日曜劇場『海に眠るダイアモンド』第6話──「人生」を見つめる幸せな時間
TBS日曜劇場『海に眠るダイアモンド』第6話が放送され、これまでの展開とは一転し、物語の中で最も穏やかで幸せな時間が描かれた回となった。けれど、その幸福の背後には、消えることのない過去の影と、未来へと続く決意がある。「人生」という言葉が幾度となく交わされるこの回は、登場人物たちが自らの生きる意味を問いながら、大切な人とともに歩む決意を固めるエピソードとなった。
東京オリンピックを翌年に控えた1963年。多くの炭鉱が閉山に追い込まれる中、端島にはいつも通りの正月が訪れていた。
その頃、園芸部での活動に熱を上げる朝子(杉咲花)は、鉄平(神木隆之介)に育てた鉢植えを見せる。
うれしそうな朝子を見て、うれしくなる鉄平。2人の距離は確実に近づいているようだった。
一方、賢将(清水尋也)はある決意をし、鉄平にだけその胸の内を打ち明ける。
そんな中、進平(斎藤工)とリナ(池田エライザ)が荒木家を訪れる。リナを追手から命懸けで助けて以来、仲を深めた2人は、ある報告を告げにやってきた。
一方現代では、自分といづみ(宮本信子)に血縁関係がないこと、そしていづみの本当の名前が“朝子”だと知った玲央(神木)は、自分と鉄平の関係を探るため、鉄平が残した10冊もの日記をひも解くことに。するとその中の1冊に、“種”のようなものが挟まっていて…。
「いまがいっちゃん幸せ」──リナと進平の結婚
リナの懐妊が明らかになり、進平との結婚が決まる。「二人だけの世界なんだよな」と鉄平が呟くように、リナと進平は互いにとって唯一無二の存在だった。戦争やヤクザの影に脅かされながらも、リナが「いまがいっちゃん幸せ」と笑うシーンは、これまで幾度となく試練に晒されてきた彼女が初めて手にした穏やかな時間だった。
けれど、それはあまりにも儚い。視聴者はこの幸せが長く続かないことを知っている。進平の運命を知っているからこそ、この瞬間がより一層切なく感じられた。
「植物の死骸に生かされている」──朝子のストライキと新たな夢
一方で、端島では朝子が食堂勤務を拒否し、ストライキを始める。百合子の差し金であることが明らかになるが、彼女自身はその動きの中で新たな目標を見つける。それが「端島に植物を育てること」だった。
現代パートに代わり、玲央が「(花や植物が)本当に好きだったんだね」と問うと、朝子は「最初は花が好きなだけだった」と答える。しかし、「今は?」と尋ねられると、少しはにかみながら「人生」と答える。
「嫁に行けないぞ」と揶揄われ「だったら嫁に行かなくてよかと!」と反論する朝子を見て、笑みをこぼす鉄平。その表情を見て、朝子は「揶揄われているのを馬鹿にして、私のことなんてどうでもいいんだ」と思ってしまう。
けれど、その後で鉄平が「俺は朝子と結婚したいんだけどなあ」と漏らしたことを知る。日記には書かれていなかった、けれど、どこかのタイミングで誰かが聞いた言葉。鉄平にとって、朝子は特別な存在だったことを、このシーンでは強く感じる。そして気持ちのすれ違いがもどかしく、可愛らしい。
「付き合ってよ」──賢将と百合子の約束
賢将はティッシュに包んだ指輪を取り出し、百合子にプロポーズする。カトリックでは離婚ができないこと、そして彼女が被爆の影響を恐れてきたことを理解した上で、「わかってる、百合子が今までそのことを気にして生きてきたこと」と静かに受け入れる。
「これからも付き合ってよ、俺の人生。俺も百合子の人生に付き合うから。」
それは、彼らなりの愛の誓いだった。百合子は「私の人生、手強いわよ」と言いながらも、「俺はタフだよ、百合子がいれば」と答える賢将。そのやりとりには、これまでの苦難を乗り越えてきた二人の覚悟が詰まっていた。
そして、「私の役目は終わったはずだった」と感じる百合子。しかし、その役目は終わらない。彼女は誰かの人生に寄り添い続ける人だったのだ。
「コスモスを植えたい」──人生とともに育つ花
歴代ドラマの中でも一番の告白シーンと言えるかもしれない。そんなテレビドラマ回の歴史に残るような、鉄平から朝子への告白シーン。美しくピュアで儚げで、涙が止まらなかった。
鉄平が何かを言おうとする。しかし、朝子はカメラに背を向ける。鉄平は息を吸う。朝子はそれに気づき、笑みが止まらない。しっかりと姿勢を正し
て、聞く姿勢をとる。
「俺、朝子が好きだ」
「ゆっくり長い目で、見てほしい。」
「わかった。」
このやりとりが、どれほどの想いを込めたものだったか。言葉にしなくても、互いの気持ちは伝わっていた。このシーンは、恋愛リアリティーショーのどんな告白シーンよりもリアルで、そして美しかった。
それに続き、朝子は「お婿さんになる人と、コスモス植えたいけん」と言い、鉄平にコスモスの種を渡す。それはただの植物の話ではなかった。鉄平と朝子の間にある「何か」が、ゆっくりと育っていることを象徴していた。
最終話を観た後に、このコスモスのシーンを観ると、初見とはまた違った意味で涙が止まらなかった。
余計な言葉はない。特に、受け入れる朝子からの言葉は少ない。でも、鉄平が何かを言う前の表情から、相槌から、朝子が鉄平のことをいかに愛らしく思っているかが伝わってくる。杉咲花も、神木隆之介も演技の化け物だ。つい、手を合わせて拝んでいる自分がいた。
「私も知らないの、鉄平がどうなったのか」──幸せの先に待つもの
6話は「幸せな回」と言われるが、ラストシーンは視聴者に大きな衝撃を与える。日記には「坑内火災」という文字。そして、「私も知らないの、鉄平がどうなったのか」という朝子の言葉。
視聴者は息を呑む。火災で鉄平が死んでしまったのではないかと。しかし、本当に火災で亡くなったのは兄の進平だった。進平の死をきっかけに、鉄平の運命が不明になってしまったのだ。
幸せな時間は、永遠には続かない。けれど、その瞬間を生きた証が、確かに残っている。リナが出産し、賢将と百合子が結ばれ、鉄平と朝子がゆっくりと関係を育てていく。端島は「もっといい島になる」と語られるように、登場人物たちの人生もまた、少しずつ前に進んでいく。
次回への期待──「人生」の行方
第6話は、これまでの重い展開から一転して、登場人物たちが幸せを感じる瞬間が丁寧に描かれた。しかし、その幸せの先には、まだ見えない運命が待ち受けている。鉄平はどこへ行ったのか? そして、朝子の人生はどこへ向かうのか?
「人生」をテーマにしたこの回は、ただの恋愛ドラマではなく、一人ひとりがどのように生きるのか、その選択の連続が人生を形作っていくことを示していた。次回、物語は再び大きく動き出す。