掌編怪談「気のせい」
紅葉狩りをしに山に来たが、どうもおかしい
何度か人に触られる感覚があり、その都度周囲を確認するが近くに人はいない
そのため気のせいだと思い込み、紅葉狩りを楽しむことにした
ふと道の端に一際大きな紅葉が落ちているのを見つけ、拾おうと右手を伸ばす
紅葉に指が触れるが早いか、手首をナニかに掴まれたかと思うと強い力で引っ張られた
気がついたら病院だった
どうやら私は滑落したようだ
身体中傷だらけで足の骨にもヒビがあるが、命に別状はないとのことだ
引っ張られたと感じたのは気のせいだったのだろう
命が助かって何よりだ
滑落の瞬間を目撃し、通報してくれた方に感謝の手紙を認めながら右手首をさする
医師にも看護師にも指摘されない、手首に残るこの右手の形の痣
これもきっと気のせいなのだろう