掌編怪談「鈴」
虫取りに来た山でミヤマクワガタを見つけた
捕まえようと慎重に近づくが、飛んで逃げた
追いかけて山に分け入る
だが追跡も虚しく見失ってしまった
挙げ句、ここがどこかも分からない
一時間ほど彷徨ったが、知った場所には出られなかった
このまま死ぬんだ
子供だったこともあり、そう考えると蹲って泣いていた
りん…りん…
微かに鈴の音が聞こえてくる
何かに誘われるかのように音の方へと足が動く
近づいているのか、鈴の音は少しずつ大きくなる
しばらくして登山道に出られた
もう鈴の音は聞こえない
なんとなく山の方に振り返ると鈴蘭が自生していた
帰りがけに麓の神社に参拝する
助けて頂きありがとうございます
心から感謝を伝える
風が頬を撫でる
りん
返事をするかのように小さな鈴の音が聞こえた
顔を上げて音のした方を見ると、御神体の銅鏡に目が止まった
銅鏡には女性の後ろ姿が映されおり、その手には神楽鈴が握られていた
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