掌編怪談「ベッド」

疲れた体を引きずり、なんとか帰宅した

風呂に入るのも服を着替えるのも億劫なので、そのままベッドにダイブする

倒れ込んだ先にマットレスの柔らかい感覚はなかった

硬いものに全身を打ち付け、痛みに悶絶する

体を起こそうとすると、今度は後頭部を何かに打ち付けた

後頭部をおさえ、痛みが引くのを待つ

うつぶせのまま現状を確認する

どういうわけか、俺は今ベッドの下にいるらしい

ベッドをすり抜けたのか?

科学的に物体をすり抜ける確率は0ではないと聞いたことがある

それが偶然起こったのだろうか

貴重な経験をしたのかもしれない

だが、疲れているので今は早く寝たい

ベッドの下から這い出ると

はぁ?

という間の抜けな声が漏れた

無理もない

明らかに自分の部屋ではなかった

部屋の中には自分以外誰もいない

とりあえず玄関から外に出る

共用部を見るに自分の住むマンションで間違いはなさそうだ

部屋番号を確認すると自室のちょうど真下の部屋だった

どおりで間取りが同じなわけだ

どうしようもないので鍵を開けたまま自室に戻る

この部屋の住民がいなかったのが唯一の救いだ

自室のノブをひねると鍵が掛かっていた

今夜はまだ、眠れそうにない

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