掌編怪談「賽子」
彼女と参加したバスツアー
その途中、休憩で河原に立ち寄った
川のせせらぎ、木々の擦れる音が心地良い
彼女と川沿いを歩いていると、先の方で子供が遊んでいるのに気がついた
水切りや石積をしている子が多い中
手前の子が一人、サイコロで遊んでいた
小さな竹籠にサイコロを二つ入れ、コロコロと転がしている
近づくと目があった
子供は竹籠を伏せ
丁か半か
と問う
俺は丁と答えた
子供が彼女の方を見る
彼女は半と答えた
竹籠を上げる
二つとも出目が一だった
ピンゾロの丁です
子供がそう言ったと同時に、背後に気配を感じた
振り返ると、赤くて大きな鬼がいた
鬼は彼女を掴むと川に投げ込んだ
彼女はしばらく踠いていたが、引きずり込まれたのか突然沈んで見えなくなった
呆然としていると、ガイドから声をかけられ我に返った
周りを見回すが、子供も鬼もいない
俺が見たモノ話すが、信じてもらえない
彼女がいないのは確かなので警察に通報し、俺の証言から川を捜索した
俺も必死に探したが、彼女が見つかることはなかった
そもそも脛ほどの深さしかないので、沈むはずがない
それから毎年、俺は彼女が居なくなった日にその川で石を積んでいる
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?