掌編怪談「踏み切り」
道を遮るように遮断機が下りている
カンカンカンと耳障りな音が鳴り響き、赤いランプが鬱陶しく点滅する
先程まで何もないただの地下道であったはずだが…瞬き一つでこうも変わるものなのか…
驚きでしばらく目を見開いていたが、抗えない欲求に一瞬瞼が視界を塞ぐ
目の前の光景に驚き、何度か意識的に瞬きを行う
瞬きをするたびに、目の前に現れた女性の顔が恐怖に歪む
そして俺と目が合うと、その顔から一切の表情がなくなった
俺は瞬きを止めて目を強く閉じる
遮断機の音が聞こえなくなるまで
その場にしゃがみ、目の前に広がる光景を思い出す
自然と口元が緩む
なんで助けてくれなかったの?
そんな問いかけに心の中で答える
人の死を見るチャンスだったから
カンカンカンと、いつまでも音が止まない
薄目を開けて周囲を見る
何故か遮断機の内側にいるようだ
急いで逃げようとするが、足が線路に挟まっているので逃げられない
大きな鉄の塊から伸びる二本の光が、最後に彼を明るく照らした
隔離病棟で見つかった男の死因は不明だが、解剖は行われなかった
事件性もなく、遺族が望まなかったのもあるがそれだけじゃない
葬儀も行われなかった男の体は、轢死体のように見るも無惨な姿だったと言う
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