掌編怪談「ねぇねぇねぇ」
偶然通りかかった場所に人だかりを見つけたので近づいてみると、交通事故があったようで救急隊による懸命な救助活動が行われていた
何とはなしにその光景を眺めていると、救急車がサイレンを響かせながら発進していった
ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ
救急車が走り去る姿を眺めていると、背後から声をかけられた
妙にテンションの高いその声に不快感を覚えつつ、何事かと振り返る
すると、見知らぬ女が興奮気味に同じ言葉を連呼していた
ねぇねぇ誰だと思う?あそこに乗ってるの誰だと思う?ねぇねぇねぇ!
事故現場なのに満面の笑みでそんなことを言うのは不謹慎だ
この女が気持ち悪いのと野次馬をしていることに罪悪感を覚えたこともあり、俺は何も答えずにその場を後にした
この時は気がつかなかったが、不思議なことに誰もその女に見向きもしていなかった
翌日のニュースでこの時の事故が取り上げられており、亡くなった人物の写真が写し出された
それは「ねぇねぇねぇ」と俺に声をかけてきたあの女の写真だった