掌編怪談「暗示」
友人にはたまにすれ違う婦人がいるらしい
婦人はいつもすれ違いざまに友人の未来を暗示する言葉を残すのだとか
それが妙に当たるので不気味に思っているという
婦人と会いたくないからと友人は地元から遠く離れた大学に入学し、独り暮らしを始めた
だが何故か引っ越し先でもたまにすれ違い、同じ様に未来を暗示される
怖くなったらしく俺の所に相談に来た
そんな話を聞きながら街中を歩いていると、テラス席で談笑中の婦人の一人が突然友人を指差して口を開いた
あっ、あんた明日死ぬね
呆気にとられる俺らを尻目に婦人たちは何事もなかったかのように会話を再開する
気の弱い俺達が何か出来る筈もなく、そそくさとその場を立ち去った
さっきのが件の婦人らしく、友人はガタガタと震えている
死を宣告されたのだから無理もない
励まそうと声をかける俺に友人は土下座した
話を聞くとテラスにいたのは皆あの婦人だったという
気づかなかったが謝ることではない
そう言いかけた俺を遮り、友人はさらに口を開く
俺に死を告げた後、あいつらが話してたのはお前の未来についてだった
巻き込んでゴメンと泣いていた友人は心臓発作で倒れ、翌日息を引き取った
以来、俺はあの婦人とたまにすれ違っている