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みんなのお墓 吉村萬壱

吉村萬壱さんの作品です。

大くくりに分類すると、現実社会の片隅にあるプチディストピア小説です。
ストーリー展開は・・・
町はずれの共同墓地にあるお墓を中心にして、理性のタガが外れた本能むき出しの人たちが、欲情をダダ漏れさせながら跋扈(ばっこ)する様を描いています。

百鬼夜行抄の様相を呈する随所にちりばめられたサド・マゾの個人的嗜好(性癖・奇態)から、一見破壊的にも受け取れる偏執的なストーリー展開に、計画されたカオスなのか単なる男女の尾籠(びろう)な行動なのか。
思案投首(しあんなげくび)暫し・・・

しかし、そのストーリーに埋没していく自分を発見しました。
登場人物は、心に秘めているタブーを破壊して現出させることで「ガス抜き」になり、故に心の均衡を維持しているのです。

究極のタナトス的欲求です。※1

そんな自分の殻に閉じ込めてあるタブーと欲求の発露を、作者は独特の視点で軽快で展開しています。
くさやの干物を例えにするのは失礼ですが、一度食すると病みつきになる世界観です。

※1 精神分析の用語で、簡単に説明すると、エロスの対になる欲動で「快楽が生」なら、その反対の「死の欲動との闘いが生」という「破壊が人間の欲望であり快楽であり、かつ本能である。」という認知度の180度発想の転換です。
フロイト等は、この思想の大転換によって、なぜ人間は戦争に突き進むのかという命題に切りこめるようになりました。
つまり、人間の快楽は「」だけではなくて、戦争という「破壊行為」に快楽を感じているのではという命題に気付くきっかけになりました。

(プロフィール)
2001年『クチュクチュバーン』で第92回文学界新人賞を受賞。かつてない奇想的な内容で選考委員の奥泉光氏から絶賛された。
2003年には『ハリガネムシ』で第129回芥川賞を受賞し、文学界において高い評価を得る。人間の内面に潜む暴力性を象徴的に描き出し、山田詠美氏ら選考委員から高く評価された。その他の作品に中篇『岬行』がある。『バースト・ゾーン』は初の書き下ろし長篇。

吉村萬壱の本から


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