情緒ある化学焼き芋甘く焼く
蜜が溢れ出るほどに、トロッと焼けた焼き芋の甘さ。これは化学反応の賜物である。
デンプンを充分な量の水とともに加熱する。
するとデンプンの規則正しく並んでいた分子配列が解け、糊状に変化する。これを「デンプンのα化」という。即ち、生のさつま芋を蒸したり焼いたりすると、包丁の刃が容易に通らないほどガチガチに固かったものが、ほっくりホクホクになるというカラクリだ。
ホクホクの芋を、さらに時間をかけて加熱る。すると今度は、α化したデンプン中に含まれるアミロースやアミロペクチンといった多糖類に対し、芋に含まれる酵素が働く。ブドウ糖に代表される単糖類や、二糖類が生成されることで甘味が増すのだ。このとき働く酵素は、我々人間の唾液に含まれる消化酵素と同類の、βアミラーゼという物質だ。
化学反応と聞くと、実験器具や工場の設備の中で進行する現象という、無味乾燥なイメージが想起される。焼き芋はどうだろう。ストーブの暖かな火の上で、くすぶる落ち葉の中で、売り声高くやって来るトラックの荷台の窯の中で。じっくり甘く焼けてゆく様は、冬を実感する風情に溢れているが、これもまた化学なのである。
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