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星の話をしよう④

シリーズで掲載させていただいた
「星の話をしよう」も、今回が締めくくり。

これまで広大な宇宙の広がりに寄せる思いを、人類の歴史と紐づけた俳句と自解でまとめてきたが、最後はぐっとスケールを縮小して、より身近な星の景色を描いてみる。


主役となる星は、金星。

私たちの暮らす地球の属する太陽系の第2惑星で、地球から最も近い距離にある惑星だ。

太陽と月を除き、地球上から観測できる最も明るいこの天体は、月やほかの惑星と同様、太陽の放つ光を反射して輝いている。

夜明け前の東の空と、日没後の西の空に、際立って明るく輝く様子から、それぞれ「明けの明星」、「宵の明星」として知られる。

金星の中国古来の名称は、太白。この太白という呼び名を用い、一年の中でも特に輝きの冴えて美しい冬の金星は、「冬太白」として季語に数えられている。

街の灯の冬太白を汚しゐる
2021・冬

説明が長くなってしまうので詳しくは割愛するが、地球と金星、太陽の位置に関係して、金星が明けの明星として見える時期、宵の明星として見える時期は、9ヶ月ほどの周期で繰り返されている。つまり、1年のうち明けの明星と宵の明星の見える時期は、その年毎に違ってくる。もう少しだけ正確に言うと、金星の見える時期と方角は、ほぼ8年周期で変化している。

この年、私が句にしたためた金星は宵の明星で、時期は12月の半ば頃。仕事帰りの車中から、日もすっかり暮れた西の空に、明るいひとつ星を見つけた。

周囲に民家も少ない山間の道で捉えた明星は、夜空にただ一つ輝く一点として、とても目立って見えた。しかし、市街地の広がる盆地の淵へさしかかると、それはたちまち眩い夜景の中に紛れ、存在感を失ってゆく。

人間の営みが作り出す灯が、星空の輝きを、みるみる汚していくかのように感じられた。

12年前の大震災と、原発事故。

それを契機に、これまで深く考えずに享受してきたエネルギーや、文明的な豊かさについて考えさせられたという人は、少なくないのではないだろうか。

渦中の福島に生き、そうした思いと隣り合わせの日々を過ごしているからこそ、この風景が歪なものに感じられたのかもしれない。


とはいえ、金星というのは、我々の生活環境に程近いところにある星として、親しんでいる存在でもある。

日没後の時間帯に見られる宵の明星は、ちょうど帰宅の最中などに見かけることが多い。一日の疲れが肩にのしかかる中、ふと見上げた空に明るく輝く星を見つけて、ほんの少し体が軽くなるような思いをしたことはないだろうか。

子どもの頃、日がとっぷりと暮れるまで遊んだことのある人なら、「一番星、みいつけた」の囃し言葉そのままの、懐かしい景色が思い浮かぶかもしれない。

明けの明星であれば、それは早起きのご褒美に、一日のはじまりの清々しい気持ちを届けてくれたはずだ。

思い出と共に、いつも私たちに寄り添ってくれるのが、金星という星だ。



以上ここまで、冬の夜空を巡るお話しでした。
ご精読ありがとうございました。

皆様もぜひ冬の夜空を見上げ、心安らぐひとときを楽しんでみてください。

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