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星の話をしよう③

今回は、インチキ冬の星空俳句。

何がインチキなのかというと、季語が無い。

季語が無いけど、これは冬の星空を詠んだ句。

冬の季語である「オリオン」の、その一部を構成する星のひとつに、フォーカスしてみた。

星の世も久しからずや平家星
2020・冬

平家星というのはオリオン座の、三つ星を中心とした臼のような(あるいは砂時計のような)形をした部分の、左上の星。冬天のなかでも特に目を引く赤い色をした星で、ベテルギウスという。オリオンはギリシア神話に登場する巨人の狩人だが、 星組みの上にその姿を重ね合わせた図でいうと、棍棒を振りかざした右腕の腋の下にあたる。

三つ星を挟んでちょうど対角の位置には、もう一つ白く明るい星がある。この星をリゲルといい、こちらはオリオンの左足の位置だ。

ベテルギウスと、リゲル。日本ではその星の色を源平の旗色に見立て、真っ赤なベテルギウスが 平家星、白い色をしたリゲルが源氏星と呼ばれている。

平家星ことベテルギウスは、年老いた星である。赤色超巨星といって、星の一生の末期の段階にある。

恒星のうち質量の大きな星は、小さな星と比べて、あっという間に燃え尽きてしまう。太陽の年齢が47億年、寿命が100億年ほどといわれているが、その太陽と比べて20倍ほどの質量を持つベテルギウスは、1,000万年生きた現在、もはや余命幾許もない。

そうして大きな星がほぼ燃え尽き、活動が衰えてくると、大きく膨らんでゆく。温度も低くなるため、星の放つ光の色は赤くなり、また暗くなってゆく。そうした星の膨張が進みきった段階が、 赤色超巨星だ。

赤色超巨星がその後どうなるのかというと、超新星爆発という大爆発を起こし、最後には宇宙の塵と化してしまう。

2020年の初頭、ベテルギウスの様子が急激に変化しているようだ、という話題を耳にする。それには星が一生を終える瞬間である超新星爆発がすぐにでも起こるかもしれないという言説が含まれており、世紀の天体ショーが間近に迫っていると、にわかに囁かれていた。

と、ここまで説明が長大となってしまったので、改めて掲出句を提示する。

星の世も久しからずや平家星

一つの星の命が、終わりを迎えようとしている。奇しくも、その名を平家星という。

祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
『平家物語』より

『平家物語』の書き出しが象徴しているのは、栄華を極め、永く世に蔓延るかに思われながら、呆気なく滅びてしまった平家の末路。そこへ同じ名を持つ星の運命が、私の中でピタリと重なった。

いつの時代も変わらぬ姿で、そこに在り続ける星空。だからこそ人々は、神話の世界をそこへ投影し、不滅のモニュメントとして、星々に名を与えてきたのだろう。

しかし科学が解き明かしたところにより、星空の永遠は否定されてしまった。

星の世も、久しからず。


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