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一族の絆という守護と枷──『スコルタの太陽』読書感想文

めちゃくちゃ良かったーーー!!!!!

イタリア南部の片田舎のある一族にまつわる、5世代にわたる年代記。
特にフォーカスされるのは3世代目の3兄妹(と、ほどんど家族同然の絆を結んだ親友)。

粗野で閉鎖的な土地と、親の残した所業と、普通でない血脈に縛られ、これでもかという逆境にありながら、時に自分たちの人生に疑問を持ちながら与えられた生を精一杯生きる人間模様が描かれる。

序盤の1・2代目のエピソードがかなりインパクトが強いので、それと比較すると3代目以降の一つ一つのエピソードはかなり小粒に見える(平凡とは言い難いけど)。
けれど、わたしはむしろ中盤以降に心を惹かれた。

まさに「置かれた場所で咲きなさい」を地でいくストーリー。

逃げ出したいけれど、逃げ出せない。
変えたいけれど、変えられない。
変わったと思ったのに、元に戻る。
うまくいったと思ったら、ダメになる。
楽しい時は一瞬で、
強いと思っていた絆も時を経ると形を変えざるを得なくて、
たくさんのことを成したはずなのに振り返ると特に何もなくて、
そして寿命が尽きて死んでいく。

時代も、国も、環境も考え方も全然現代日本人の私とは違うのに、なんだかその人生にグッとくる。人生の歓喜と悲哀というのは、万人にとって非常に共感性の高い内容だと思う。
3兄妹の行動が人生哲学として物語上に噴出してくるような印象を受ける本だった。

主人公の“スコルタの者”たちは、決して著名な誰かではない。イタリアの田舎町でその一生のほとんどを過ごし終える市井の人々だ。
それでもこの話がものすごく熱量が高く感じるのは、やはり人一人の人生というのは、並大抵でない重さをはらんでいるという証なのだと思う。

人生の一番の輝かしく幸福な記憶が、
一族みんなで食卓を囲み、お腹いっぱい食べた記憶で何が悪いんだろう?

心から幸せと感じる瞬間、生きていると実感している瞬間。
それが一つ得られただけで、もう生まれてきた意味があったんじゃないだろうか。

確固たる意志、輝かしい夢の実現、華々しい活躍
……そういう物語も好きだが、
こういう力強くも脆く儚い、だいたい曇っていて苦くて、なのに時折気まぐれに強すぎる太陽が照りつけるような物語もとても良かった。


カバーアート:atsuさんの作品

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