初めての仕事
初めての仕事
カビ臭い2畳の部屋に携帯のアラームが鳴り響く。
眠たい目を擦りながら手探りで携帯を探す。
アラームを止めようと思っても何故か止まらない。
そうアラームは隣の部屋からだった。
携帯のアラームがガッツリ聞こえるくらい壁は薄い。
夜中に聞こえていた奇声はいつのまにか聞こえなくなっていた。
いわゆる西成の飯場(はんば)と言う所に僕は転がり込んだ。
簡単に説明すると
寮に作業員を住ませて
食堂では簡単な食事が出て
その人達を現場作業員として現場に派遣するビジネスだ。
日当は当時で1日/1万円
寮費を差し引かれて手取りは7000円位だった。
その日僕は足場作業の現場に派遣されていた。
朝の6時半頃に寮の1階に降りると名前が書かれている手配ボードが置かれていた。
だいたい150〜200人くらいの名前があったと思う。
その中から自分の名前を探しているとボードの前に挙動不審な男がいた。
口角に泡を溜めて手配ボードを見ながらぶつぶつと独り言を言っている。
髪はボサボサで汚いヒゲを生やしてその辺のホームレスと変わらない見た目だ。
僕はこんな人と一緒の寮に居るんだとなんだか少し凹んだ。
でも明らかに挙動がおかしい。
体は小刻みに震えながら目を見開き目は充血して瞬きをしていない。
ピンと来た。
『こいつポン中だわ』
僕の田舎にもポン中は居たのでピンとくるまでに時間は掛からなかった。
挙動不審な男に手配師達はまだ気づいていない。
そうか、どこかのポン中が会社に迷い込んだんだ
そう思った僕は手配師の方に声を掛けた。
『あの人なんかおかしくないですか?』
すると手配師は
『あーあいつまた食っとるな』
そう聞こえました。
ここでシャブの事だと確信しました。
警察を呼ぶ事は無いとしても説教くらいあるのかなと思っていると
『〇〇!今日は現場行かんでええから部屋行っとけ。』
その男はぶつぶつ言いながら寮に消えていった。
僕はこの時
『とんでもない所に来たな』
そんな風に思った。
その後、慣れない環境で四苦八苦しながら数週間経った頃
その日は平日なのに
たまたま現場仕事が休みだった。
仕事に行かなくても寮費は取られるので手配師の方に
『寮の掃除をするので寮費と相殺してもらえませんか?』
手配師は一瞬黙って顔を見ていたがすぐに
『ええよ。寮の各階のトイレと廊下を掃除してくれるか?』
そうして僕は寮の掃除を始めた。
1階から6階まで順番にトイレを掃除して行った。
気を利かせてブルーレット的な物も買って来てそれぞれのトイレに入れようと蓋を開けると
蓋の裏側に注射器とパケがガムテープで貼り付けられていた。
見た瞬間にシャブだと分かった。
えらいもん見つけてしまったな
そう思いながら事務所の手配師に報告する。
『〇〇さんすみません。
トイレ掃除してたら便器の蓋に注射器とパケが張ってあります』
手配師は言った
『そのままにしといてくれ。』
僕はその時また思った。
とんでもない所に来てしまったと。
ここからさらに時を経て僕は手配師側になるなんてこの時は思ってもいなかった。