ラッパの男
春のある日
面接希望の作業員が事務所に来ていた。
西成では昨日まで見てた人が急にいなくなる。
逆も然り
何か問題を抱えた人が毎日
西成へと転がってくる。
誰も人のことは気にしないし
手配師の方からも
『西成の人間に過去の事は聞くな』
とも言われていた。
名前も故郷も何をしてたかも教えたくない人が沢山いる。
僕はその新人を特に気にすることも無く『この人はいつまで続くかな』そんな風に思っていた。
その新人は大体40〜50歳
いかにも何か問題を抱えていそうな見た目だった。
もしかすると僕の目が西成に居る人にそういうフィルターを掛けているのかも知れない。
面接に来てた時の手持ちの荷物はキャリーバック2つ
そのキャリーバックを見ると中身がパンパンに入っているのがわかる程に膨らんでいた。
翌日の朝
作業員さんは出勤前でいつもピリピリしている。
いつも通り僕も出勤の用意をしていると聞き慣れない音が聞こえてくる。
『プォーーープーープォー』
なんの音だこれ?
音はどこから聞こえてくる?
屋上??
なんと屋上に目をやると昨日来た新人が朝日を浴びながらトランペットを吹いている。
朝の6時前から。
最初は理解できなかった。
次第に作業員たちがざわつき始める。
異変に気づいた手配師の方たちが急いで屋上に行きその行為を辞めさせていた。
『なにやってんだお前。まだ寝る人もいるし近所迷惑だから辞めろ!』
手配師の方は怒っていた。
ここは西成だ。
こちらが予想できない行動に出る人は沢山いる。
僕もその一連の流れをみて少し面白かったのを覚えている。
『変わった奴だなアイツ。笑』
その新人はどこの現場に行くのか手配ボードを見て見慣れない名前を探しみると
その日僕が行く現場に見慣れない名札が掛かっていた。
まさかアイツじゃねぇよな。
嫌な予感は的中した。
手配師が僕に言う
『あのラッパ君今日同じ現場だから面倒見てあげてくれ』
『あ〜はい。あの人は作業経験あるんですか?』
『いや、ほとんどないからちょっと色々と頼むわ、あのラッパ君に車を運転させるから道も教えてあげてな!』
車の免許を持っている事に少し驚いたが僕は『分かりました』と手配師に伝えた。
ラッパ君が駐車場から車を乗って来て相乗りする場所へとやって来る。
ラッパ君は僕に聞いて来た。
『道が分からないので教えてください』
僕も慣れない大阪の地理がそんなに得意ではないのでラッパ君に聞いてみた
『スマホ持ってますか?持ってるなら住所を言うのでナビで行ってもらえれば助かります。』
ラッパ君はこう答えた
『スマホ持ってるんですけど自分は機械音痴で全く使い方分からないです。』
なんだよそれ。
イラつきながら僕は言った
『あー。わかりました。なら僕が住所を入れるのでスマホ貸して貰えますか?』
ラッパ君はスッとスマホを渡してきた。
本当に変な奴だなぁ
と思いながらラッパ君のスマホのナビを開き住所を入力しようとした時
『おおさかふ』
とスマホに打ち
変換しようと変換履歴を見るとそこには
『大阪風俗』と出て来た。笑
僕は吹き出しそうになった
興味本位で大阪風俗を変換してその後の履歴を見ると
大阪風俗 安い 場所
と関連履歴が出て来る。
なんだよコイツ。
携帯全く触れないとか言いやがって風俗の場所を探すのにGoogle使えてるやんけ。笑
僕は吹き出しそうになるのを堪えて住所を入力して仕事には無事には行けた。
数日が過ぎ
そんなラッパ君はいつの間にか会社から居なくなっていた。
誰もそんな事気にしていない。
僕は思った。
『あの人も色々生きづらそうな人だったなぁ。どこかで生きているのかな』
あなたの街でトランペットが聞こえて来たらそれは彼かも知れません。
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