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天邪鬼な女の話

 目の前にこましな容姿の女児がいるとふと「かわい子ちゃんですね」と言ってみたくなるものだ。
 恥ずかしがったりはにかんだりして喜ぶ反応を期待してのことだ。
 むろん子供が皆大人の望んだとおりの反応をするとは限らない。
 意に反して嬉しがる素振りを毫もみせず変顔をしたりふて腐れた態度で返す子もいる。
 褒めたつもりの大人は望んた通りの反応を示さない子に、
「可愛げがない」と憤慨する。
 褒めてやったことを後悔する。
 そのような子供の態度にはすでに日本語で呼び名がついている。
「天邪鬼(あまのじゃく)」だ。

 せっかく可愛いといってやったのにブス顔で返され気分を害した大人は、思惑通りの反応をする子より天邪鬼の方を濃く記憶に残す。
 不快感とともに執着が残るからだ。
 不快を合理化して消すまで執着させられる中毒性が天邪鬼にはあるのだ。
 実はそれが落とし穴であり罠なのだ。
 不愉快な思いをさせられた男は、それを合理化できないとずっと想いつづけなければならない羽目になる。
 気が付くと彼女のことばかり考えるようになっている。
 天邪鬼な娘には男を虜にする天稟がある。

 昔TBSラジオに『BATTLE TALK RADIO アクセス』というテレ朝「朝まで生テレビ」のコンセプトをパクったようなやっつけ討論番組があった。
 パーソナリティーとTBSのエロバカ女子アナが曜日替わりのレギュラーで、そこにその時売れている本の著者や人気コメンテーターがゲストとして招聘される。
 ゲストとその日の討論テーマを提示し、一般視聴者の参加者を募る。
 選ばれた一般人視聴者と電話を繋ぎ、パーソナリティー、莫迦女子アナ、ゲスト、電話参加視聴者が集って、当日のテーマについて討論をする、という企画がTBS『アクセス』という番組だったわけだ。

 その日の曜日担当パーソナリティーは宮崎哲弥だった。
 女子アナははっきりとした記憶はないが朧気ながら渡辺真理だったような気がする。
 ゲストは『銀座小悪魔日記』という著書が売れていた蝶々という名の女性だった。
 コピーライターと銀座クラブNO1ホステスを兼務している時公開していた同名ブログが出版社の目に留まり、作家デビューしたという経歴の女だ。
 ラジオだから顔は見えないが、鼻にかかった幼稚な声で、私には正直言って全く好みのタイプではなかった。
 ゲストとして招待するのだからパーソナリティー宮崎哲弥は著書を一通り読みその内容への私的好みも加味してのことだろう、終始大変ご満悦なのが印象的だった。

 蝶々という女性の本の読者には圧倒的に女性が多く、ほとんどカリスマといってよい存在だった。
 男にモテるにはどうすればいいのか、彼氏に愛される振舞いはどうしたらいいのか。
 そのような指南書として高く評価されていたようなのだ。
 銀座クラブのホステスとしてNO1の売れっ子だったわけだから、それを好む男が実際多数いたのだろう。
 鼻の下伸ばして嬉しそうな宮崎哲弥が売れっ子ホステスに掌で転がされることを好むムッツリエロオヤジであることはそれを聴いただけで誰にも判ったことだろう。
 私はキャバクラや銀座のクラブでホステス侍らせて酒を呑み談笑することに微塵の興味も持たない男だから、この幼稚な喋り方の女が男に好まれる魅力になんの興味もないわけだが、使い古しポンコツ女がどのような自尊心を持つ種類なのかを知るうえで大いに参考になった。

 蝶々女史が提示したものは、いわば小悪魔主義である。
 『小悪魔な女になる方法』という本は50万部売れたというから実際「小悪魔ブーム」のようなものがこの人を起点として起こったようにも見受けられる。
 結婚もしない異性と性交をする女どもが男を惹きつけるにはどうしたらいいのか、というお悩み相談に、コツは小悪魔になることだと教えた。

 この「小悪魔」という類型は、決して新しいものでない。
 昔からいる種類の女を今風に記号化したものにすぎない。
 すでに存在している全く同じ意味を持つ言葉が「天邪鬼」だと言っていい。
 天邪鬼な性質を持つ女は男を虜にする。
 生得的な天邪鬼は、決して嫌われることなく、男にはモテる天稟があるということだ。
 もとからの自己の性質を努力でもなく何の創意工夫もなくそのまま使って銀座クラブのホステスやキャバクラ務めをすればNO1になった。
 その程度の女を崇拝したり生き方の手本にしようとする女に添う価値はおろか、附合う値打ちすら私は感じない。

 宮崎哲弥は硬派ぶっているが、本質的に根がスケベおやじで、同じ種類の小悪魔ホステス臭が漂う女に知性をひけらかしながら近づく男である。
 TBS『アクセス』の「CHOCHO生しぼり」ゲスト回を聴取して、その宮崎哲弥の本質がありありと見て取ることができたのだった。


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