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愛の無限オーケストラ

 種族、エイリアンとパンドラスペースの隆盛は終わりかけている。アンノウンの讒言にのせられて、本来軌を一にするハンターに襲いかかる王と、ハンターを庇護する瀕死の妃は、16弾カードパックにおいて重要な人物であった。姫を愛するがゆえ、二人は違った方向を向いていた。
先日、16弾からは想像もつかないカードが現れた。
「愛の無限オーケストラ」である。


エイリアン・ファーザーとマザーの愛が美しい。

私はこのカードの豪奢な美しさと、その中に重く影を落とすもの悲しさを高く評価する。ほろびゆくパンドラの秘宝を命を投げ出して守る王家夫妻の、最後の一幕。それが「無限オーケストラ」であるのは、非常に示唆的だ。ほろびゆくと分かっている世界の中心で、文明を超えて開かれるオーケストラは、パンドラ王家最後の輝きである。

崩れていく世界で、「超無限進化」

「無限オーケストラ」のもつ「超無限進化」も特徴的だ。アンノウンによって破壊される運命にある世界は、いわば風前の灯火であって、「無限」とはほど遠い。また、デュエマの歴史からいっても、このしばらく後でも「刃鬼」などの登場でしばらく活躍するハンターと、パンドラが滅びたことであまりプッシュされないエイリアンとでかなり差がついている。パンドラが滅びるという舞台設定が、そのままデュエマの環境に重なるわけだ。

ハンターを大量に踏み倒す

エイリアンはこの後、ゆっくりとしかし確実にフェイドアウトしてゆく。だからこそ、夫妻の「無限オーケストラ」は美しい。有限で、消えてしまうことが分かっていても、二人の愛は無限である。あるいは、消え去るときにあがくのではなく、むしろ大いに歌い舞うという美学があるのだろうか。オーケストラが閉演するとき、それはパンドラ全体の死を意味する。だからこそ、その状況に置かれたオーケストラの高揚感は、この世のものでないほど高ぶるのだろう。そして、二人の愛が無限であることは、すでに保障されているも同然だ。二人の愛の象徴である姫は、「永遠のプリンプリン」として、今後も悠久に旅をするのだから。

全ての文明を招待する

「オーケストラ」そのものがクリーチャーであるから、進化元はその招待客ではないだろうか。クリーチャーたちが、種族や文明を超えて一堂に会したとき、文明を超える連帯性を内包するパンドラ・スペースの「オーケストラ」がはじめて開催される。観客あってのオーケストラであるから、進化元もオーケストラの一部であると捉えることができるのである。そして、無限オーケストラの進化元は五文明全てを必要とする。そうでなくてはならないのだ。パンドラ・スペースの、文明を超えた無限の連帯が示されなくては、パンドラの秘宝を守る意味が薄れてしまう。このあたりの、文明を超えた連帯とその崩壊は、まさしく「無限軍団」や「サバイバー」に似ているが、大きく違うのは、エイリアンは真の意味では侵略者ではないということだろう。無限軍団やサバイバーには、愛が足りなかったのである。16弾では、ある特定の種族の庇護者に過ぎなかったマザーおよびファーザーが、その愛で文明同士の連帯を包括的に促すオーケストラを開催したことは、描写として大変素晴らしい。面白いのは、ファーザーを扇動したリヒャルト、すなわち「ゾルゲ」を「オーケストラ」が呼び出したり、パンドラを破壊する「13」を進化元として招待したりできることである。

 「扇動」のアンノウン


「パンドラを滅ぼした」

かつて「スレイヤーを与え」、「全てのバトルに勝」たせるなどして抵抗や闘争を助長していたパンドラ王家は、「オーケストラ」となって完全に生まれ変わっているのだ。あらゆる種族、文明が連帯できるというパンドラの根本に立ち返り、おおらかで、融和的なオーケストラを奏でたのだ。たとえそれが世界を滅ぼす種族だとしても。
「愛の無限オーケストラ」をファーザーとマザーの物語として見た場合、全ての文明が混ざり合っていることは、また異なった意味合いを帯びてくる。「ファーザー」のもつ火、闇と、「マザー」のもつ光、水にさらに自然が追加されているのである。いわずもがな、二人の愛の象徴、「プリンプリン」の文明である。イラストには「プリンプリン」は描かれていないが、私はここでは、「プリンプリン」に象徴される、(あらゆる種族、民への)愛そのものが自然文明として表されていると解釈したい。16弾のファーザーとマザーに欠落していたのは、自然文明の「姫」であり、同時に愛であったのだ。「姫」を取り戻すためにファーザーなどはエイリアンを捨て駒のように扱える能力をもち、闘争に明け暮れたのである。それが、自然文明すなわち愛を、そして「希望の王女」を見いだしたとき、自らの運命を半ば諦観した、だがそれゆえにとびきり美しい「オーケストラ」となったのだろう。

最悪の形での物語的継承

しばらく後に登場する、そもそもの元凶「ゼニス」あるいは「ゼロ文明」は、「愛の無限オーケストラ」と見事なまでの対比をなしている。オーケストラの進化元になれず、呼び出せないのはもちろん、「ゼニス」やそのほかが音楽モチーフになっていて、オーケストラを塗りつぶしていく。

無色にはオーケストラは届かない


アンノウンはやがて旋律を塗りつぶす

すなわち、「愛の無限オーケストラ」の融和的旋律はゼロ文明には届き得ないばかりか、旋律が次々に上書きされ、蹂躙されてしまうのだ。パンドラの、無限オーケストラはこのときはじめて滅びることになる。ゼロ文明が席巻すると、対戦においても「愛の無限オーケストラ」が活躍しにくくなるのも併せて、非常にうまい物語構成であろう。少しばかり残酷だが、彼らの愛はプリンプリンに受け継がれ、悠久に語られるであろう。滅び行き、やがては使われなくなるのを心のどこかで諦めていながら、私は今は、この美しい物語とオーケストラを聴いていたいとおもうのだ。

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