天満宮の琴弾き
氏神さんである天満宮には
早朝の散歩で参拝する。
夜明け前、誰もいない境内を
玉砂利を踏みしめて、一歩二歩。
凛とした空気が心地よい。
ある日、美しい琴の音色が
聞こえて来た。
深山幽谷を流れる水が
山の生き物たちに潤いを与えるように
それはしみじみと私の心に沁み込んでくる。
誰が弾いているのだろう。
音は聞こえど、姿が見えない。
そのとき、一羽の鳥が飛び立った。
雀より大きく、頭部が黒く、頬と喉は赤く
体は青灰色。
鷽(ウソ)だ!
天神さんがまだ、菅原道真と呼ばれていたときに
大事な神事を邪魔した蜂を、鷽鳥がやって来て
食べ尽くしたという話があった。
そして、琴を弾くような仕草をするから
琴弾鳥という、美しい名前でも呼ばれる。
ずっと天神さんにお仕えしてるのか・・・。
鷽の飛び立った夜明けの空は、
春の喜びに満ちていた。