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ブリッジ愛好家で知られる小説家アガサ・クリスティの作品の中からブリッジが登場するものを探してみた(1940年以降編)

前回の1920〜30年代編に続き、ブリッジが出てくるアガサ・クリスティ作品を探そうシリーズです。今回は1940年代以降編ということですが、世界情勢の影響などもあり、クリスティの扱うテーマや作風も変わってきているのかなと調べながら思いました。それでは行ってみましょうー。


『One, Two, Buckle My Shoe(米:The Patriotic Murders, 愛国殺人)』1940

名探偵ポアロは歯医者で治療を終えたが、その直後、治療をした歯医者が自殺したという知らせを受ける。早速ポアロは捜査に乗り出すが、連続殺人が起こってしまい…。
日本語版はアメリカ版のタイトルを訳したものですが、イギリス版のタイトルはマザー・グースの童謡の一節から採られており、この数え歌のフレーズが章タイトルにも使われています。
この作品では、登場人物のチャップマン夫人がご近所付き合いでブリッジをしていたという記述があります。

『Evil under the Sun(白昼の悪魔)』1941

地中海の避暑地スマグラーズ島で元女優の女性が殺された。同じく島に滞在していた名探偵ポアロが捜査に乗り出すが、容疑者には完璧なアリバイがあり…。
この作品では、ある夜にポアロを含んだ登場人物たちがブリッジをしたという記述があります。

『N or M?(NかMか)』1941

夫婦探偵トミー&タペンスシリーズの長編。トミーは情報部より大物スパイ<NとM>の正体を探るよう依頼を受ける。タペンスには秘密のはずだったのに、なぜか彼女は極秘依頼のことを知っていて、捜査に加わることになり…。
この作品では、潜入捜査をしている保養地のゲストハウスで、タペンスが他の利用客とブリッジをする場面があります。

ここではブリッジの「オークション」について会話がされているのですが、2004年出版の新訳版ではオークションのビッドを「スペードの三」「クラブの二」といった調子で表記しています。
しかし、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧することができる1957年版では「スリー・スペード」「ツゥ・クラブ」と表記されています。
個人的には1957年版の「スリー・スペード」の表記のままでよかったのにな、と新訳版は残念に思いましたが、ブリッジプレイヤーの皆様はどのようにお考えでしょうか。(ちなみに1957年版には「ノー・ツラムブ」という表記がありますが、これはさすがに「ノー・トランプ」に直していただきたいですね。)

『The Body in the Library(書斎の死体)』1942

ミス・マープルシリーズの一作より。退役大佐の家の書斎で見知らぬ女性の死体が発見された。この死体は誰なのか、そして犯人は?
登場人物のジョセフィン(ジョージー)はホテルで働くダンサーであると同時に、お客様同士を引き合わせてブリッジのテーブルを用意するホステスの仕事をしているという設定です。彼女自身もブリッジの腕が良く、ブリッジ好きのおじさまたちに好評なんだとか…。

『The Moving Finger(動く指)』1943

こちらもミス・マープルシリーズの一作。傷痍軍人の男が療養のため、妹と共にとある村へ移り住むことにした。すると、気味の悪い匿名の手紙が家に届き…。
物語序盤の第3章2節は「シミントン家のブリッジ・パーティ」の様子が描かれています。毎週土曜の午後はブリッジをするのがお決まりで、そこに主人公兄妹が招かれます。このブリッジ・パーティは地域のブリッジ愛好者の交流の場となっている設定のようです。

『Towards Zero(ゼロ時間へ、など)』1944

海辺の館で裕福な老婦人が殺された。犯人の動機は金目当てでも人間関係のトラブルでもなく、ある恐ろしい目的のためだった。犯人の計画が達成される「ゼロ時間」に向けて、物語が進んでいくミステリー。本作ではロンドン警視庁のバトル警視が活躍します。
この作品では、メリー・アルディンという登場人物がブリッジをすることを提案するセリフがあります。

『Sparkling Cyanide(米:Remembered Death, 忘られぬ死)』1945

上流階級の美しい女性であるローズマリーが彼女の誕生パーティで亡くなってから一年。その時と同じメンバーを集めて再びパーティを行うことになるが、そのパーティでも新たな悲劇が起こる…。
ちなみに、本作には他のクリスティ作品でもおなじみのキャラクター、レイス大佐が登場しています。(個人的にはイギリス版のタイトルである「Sparkling Cyanide」(スパークリング・シアン=青酸カリ入りシャンパン)の方が気の利いたタイトルのように思いましたがどうでしょうか。)
この作品では、ローズマリーの社交活動の一つとして「ブリッジ会」に参加するという記述があります。

「Four-and-Twenty Blackbirds(二十四羽の黒つぐみ)」(『Three Blind Mice and Other Stories』1950に収録)

ポアロが登場する短編。ポアロと友人が会食をしているときに、友人が行きつけにしている料理店の常連客がいつもと異なる料理を注文していたことに違和感を感じたという話を聞く。その後、その客は料理店に顔を出さなくなったと聞き、ポアロは調査を始める。
調査の途中、事件の容疑者が浮上するのですが、そのアリバイが「朝から晩までブリッジをしていた」というものでした。
(日本語訳は『クリスマス・プディングの冒険』という短編集に収録されています)

『They Came to Baghdad(バグダッドの秘密)』1951

おしゃべり好きで行動力があるが、ホラを吹く悪い癖があるヴィクトリア。彼女は仕事をクビになり、一目惚れした男性を追いかけてバグダッドに向かうが、そこで不可解な事件に巻き込まれることに。ポアロやミス・マープルのようなおなじみのシリーズものとは一風変わったスパイ小説です。
この作品では、登場人物のカーデュー・トレンチ夫人はブリッジが上手である、という記述があります。

『A Pocket Full of Rye(ポケットにライ麦を)』1953

ミス・マープルシリーズの一作。ある実業家が朝食のお茶に混入された毒物によって死亡した。しかも、その遺体の上着のポケットにはライ麦が入れられていた。それに続いて連続殺人が起こるが、調べを進めるとそれらの事件はマザーグースの「6ペンスの歌」になぞらえられているようで…
なお、本作のタイトルは「6ペンスの歌」の一節から採られています。
この作品では、殺された実業家の息子パーシヴァルの妻が、マープルと会話をする際、「夫は仕事で忙しいが、自分はひとりぼっち。ブリッジを楽しむ派手な人たちはいるがなじめない」といった趣旨の会話をしています。この派手な人たちというのは「ブリッジは下手だが多額のお金をかけてお酒も飲む成金階級」な人たちだそうで。

『Destination Unknown(死への旅)』1954

東西冷戦中のヨーロッパでは西側陣営の科学者たちが次々と失踪している中、科学者ベタートンも行方不明になった。彼の行方を突き止めるべく、英国情報部はベタートンの妻にそっくりな女性をスパイとして送り込むが…。こちらも他のシリーズ作品とは一味違うスパイ小説。
この作品では科学者ベタートン夫妻がブリッジを嗜んでおり、周囲の人とブリッジをしていることが語られていたり、ブリッジに誘われて断ったりしています。

『Spider's Web(蜘蛛の巣)』1954初演

こちらは小説ではなく戯曲(演劇用の脚本)作品です。
外交官の夫ヘンリーとその妻クラリサは、ヘンリーの連れ子と共に平穏な暮らしをしていた。ある日、クラリサは来客と歓談をする中で「退屈しのぎの空想ゲームで「もしも書斎で死体を見つけたら」なんて考えることがある」と話すが、なんとそれが現実のものになってしまう…。
この戯曲は全三幕の構成ですが、第二幕よりブリッジテーブルが設置され、登場人物たちがブリッジをしていたことが語られます。

『Dead Man's Folly(死者のあやまち)』1956

名探偵ポアロシリーズの一作。ある田舎のお屋敷で「犯人探しゲーム」の催しが行われることになった。その脚本はポアロの知人である女流作家が手掛けたのだが、死体役の少女が本当に殺されてしまい…。
犯人探しゲームの準備をする際に登場人物からの「ブリッジはおあずけですからね。みんなで、ひとつ、精を出してください。」(田村隆一訳)という掛け声があります。

『4.50 from Paddington(パディントン発4時50分)』1957

マギリカディ夫人は友人であるミス・マープルに会いに行くため、パディントン駅発4時50分の列車に乗ったが、隣を走る列車の車内で男が女の首を絞めて殺そうとしている様子を目撃した。その話を聞いたミス・マープルは推理力を発揮し調査に乗り出す。
事件の調査中に登場するお屋敷の納屋は、かつてはホイスト大会(whist drive、ブリッジの祖先のゲームである「ホイスト」の競技会)に使用されていたと語られるセリフがあります。

『The Pale Horse(蒼ざめた馬)』1961

霧の晩に神父が撲殺される事件が起こる。その神父の靴の中には9人の名前が書かれた紙切れが。そこに名前を書かれた数人が死んでいるという事実を知った学者のマークが調査に乗り出す。
ある登場人物が過去にホテルでブリッジのディーラーをしていたという経歴を持っています。

というわけで、ブリッジが出てくるアガサ・クリスティ作品のご紹介でしたー。この他にもブリッジが出てくる作品が見つかり次第、記事を更新したいと思っています。
前回、今回と調査をしてみて、クリスティの有名シリーズである「ポアロ」「ミス・マープル」はもちろん、そうでない作品にも万遍なくブリッジが登場していることが分かりました。ここまでブリッジが登場することを見ると、日本人でもクリスティファンなら「ブリッジ」を知らない人はいないことでしょう。
個人的にはクリスティ作品というと「ポアロ」「ミス・マープル」ぐらいしか知らなかったので、それ以外の作品に関する知見が得られました。これを機会に色々と読書してみようと思っています。
ブリッジ愛好者の皆様も、ミステリファン、クリスティファンの皆様も、興味のある作品がありましたら是非読んでみてくださいーではー。

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