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長野県 四徳大橋~風疲労対策を拝見(大鹿村への道 長野県道59号 松川インター大鹿線)
四徳大橋は中央道松川インターチェンジから大鹿村に向かう県道59号線の橋で、支間長150mのトラスドランガー橋です。美しい秘境の村として知られる大鹿村へのアクセス道路に架かっています。そして近年の中央新幹線の工事にともない道路も整備されている路線のようです。
さて四徳大橋で特徴的に感じたのは、吊材に巻き付けられたワイヤです。大鹿村や中川村は長野県の標高が少し高くなる地域ではありますが、雪対策なら長野県の定番の対策になりそうです。しかしながら、長野県内の他の橋で見かけたことはありません。少なくとも常時や地震時の構造ではなさそうです。ひとまずは現場で見学して、あとで文献検索することにしました。
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アーチリブ側の固定は追加されたような円輪板にワイヤ端部が取り付くような構造になっていて、吊材の断面力伝達にはかかわっていないようです。
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補剛桁側もアーチリブ側と同じく吊材の端部ではなく、写真のような格点よりも少し上側の位置で固定されています。固定金具は円筒形の吊材を挟むような形状で、排水管の横引き支持金具のような形状ですね。
※「吊材」の部材名称表記は道路橋耐風設計便覧(H3)での表現を元にしています。文献によっては「斜材」とされる場合もあります。
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吊材の中間部にはワイヤ押え金具が配置されています。おそらく押え金具は溶接されているものではなく、2枚の金具の間にすき間があることから、ボルト〜ナットにより吊材との間でワイヤを締め込んでいるようです。3本のワイヤは120度の位相を保ちながらスパイラルに巻き付けられています。
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さて、四徳大橋をキーワードとして文献を検索すると、次のような事柄が示されている論文がありました。
四徳大橋においては,完成数カ月後に支間中央付近の吊材が橋軸直角方向の5~6m/sの風でトラス面内に振動するのが観測された。さらに,風速の上昇とともに振動する吊材は端部側に移行し,風速15~17m/sでは端部の吊材が振動しているのが認められた。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jawe/43/1/43_19/_pdf
対策としては、下記が示されていました。なお、発生していた疲労亀裂は対策工事の際に補修されていたようです。現場で見た感覚としても写真の確認としても、補修の跡はちょっとわかりませんでした。
実際の風疲労発生箇所は三菱重工さんの技報に掲載されていました。題名は「カルマン渦による橋梁部材の振動とその防止策」(1970)です。疲労亀裂箇所は、写真に赤いラインでマークアップしています。
・端部の補強:応力集中の低減
円筒形の吊り材に円輪板を2枚追加設置し、補剛桁からのGussPLを上側の円輪板まで延長(延長部のGussPL:円輪板近くの斜めの部分)
・吊材に直径32㎜のロープ3本を30度の角度でトリップワイヤ巻き付け:(カルマン渦低減(振動対策))
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疲労部外側からGussPLを延長(斜めの部分)
さらに道路橋耐風設計便覧に立ち返ってみると、四徳大橋のことが出ています。詳しく知りたい方は、道路橋耐風設計便覧をご覧ください。
今となっては発生しないように設計しますが、起きたことに対して対策された事例を間近で見られたのは良い経験でした。
それにしても、当時の大鹿村の方とすれば、できたばかりの橋のトラブルにご心配されたのではないかと思います。
四徳大橋の風疲労(渦励振)について参考にした文献のリンク先は下記です。なお、三菱重工の技報は国会図書館に所蔵ですので、そちらで検索・閲覧してください。(国立国会図書館のID必要)
橋梁の風疲労(勝地著 2018.1 日本風工学会誌)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jawe/43/1/43_19/_pdf
振動する鋼管柱の振動対策について(開発土木研究所月報 1990.2)
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F8686108&contentNo=1
構造物の風害(伊藤著 1988)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nagare1982/7/1/7_1_28/_pdf
鋼橋の疲労変状調査(鋼構造委員会疲労変状調査小委員会 1986)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/1986/368/1986_368_1/_pdf/-char/ja
四徳大橋の場所はGoogleMapでご覧ください。
文章のまとめ方を変えると、技術士試験の選択問題Ⅱ-2のような内容になりそうですね。
資料を検索していたら、雑誌「土木技術」(1967年8月号)で四徳大橋の建設時の状況を紹介しているものがありました。下記リンク先よりご覧ください。(国立国会図書館のIDが必要です)「橋梁と基礎」でも紹介と投稿記事があるようですが、こちらはWEBでの閲覧はできないようです。(遠隔複写サービスでの対応あり)
『土木技術 : 社会と土木を結ぶ総合雑誌』22(8),土木技術社,1967-08. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3227984
さて、このブログはそんなにまじめなブログではないので、四徳大橋を見ながらの別の話題として。
大鹿村側のスペースから眺めると、橋脚に梯子がかかっているのがわかります。古いので使われていないと思いますが、コンクリートの柱部への設置ではなく、また背中側の転落防止リングもないです。当時に施工された方や管理の方、この梯子の昇降には結構な緊張があったのかな?(私にはムリ)と思ったところです。
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落橋防止装置(PCケーブルと緩衝チェーン)はなぜか赤い色です。2014年に再塗装されるまでは橋全体が赤い色だったようです。落橋防止はまだ新しかったから対象外だったとか?なにか流れがありそうですね。劣化していないことと、ケレンと再塗装の煩雑さかな?と。紅葉の時期のコントラストを思うと、以前の赤色の姿も見てみたかったです。
四徳大橋の周辺には小渋ダムもあり、インフラツーリズム的なコースですね。
用語メモ
トリップワイヤ
表面の層流境界層に突起を取り付けることによって乱流境界層を促進し、表面の抗力を抑える。
大鹿村の方が紅葉のシーンを投稿してくださっています。秋の風景が楽しみ。