「CQをポケットに地球一周の船旅」第2回:シニア世代の飽くなき冒険心と日本のサービス文化(前編)
「船で世界一周」と聞くと「自分には無縁」だと感じていませんか?
かつて私もそう思っていましたが、ピースボート第117回クルーズで2024年4月から105日間で世界18ヶ国を巡り、その思い込みが一変しました。
この連載では前回の第1回:「未知なる世界へ、いざ船出!」—私が期待するクルーズとは?に引き続き、船旅での経験をCQ(異文化適応力)の視点から分析し、知られざる船旅の世界や、出会ったユニークな人々、日本と各地の文化、社会課題についてお届けします。
一緒に船旅を楽しみましょう。
目次
シニア世代の底抜けの冒険心と自立心
今回のクルーズには、1000人以上のシニアが乗船しました。それぞれ異なる背景や目的があり、その特徴を一言で表現することはできませんが、陸上ではなかなか出会えないユニークなシニアたちとの出会いが、この旅を特別なものにしました。
いくつかのエピソードを通して、文化知能(CQ)の視点から彼らの特徴を分析してみたいと思います。これを通じて、私たちが高齢化社会を豊かに生きるためのヒントを見つけられるかもしれません。
シニアたちを見ていて特に印象的だったのは、飽くなき冒険心と好奇心です。それを顕著に表すのが寄港地での過ごし方です。
寄港先は旅行ガイドにもほとんど情報が載っていないようなマイナーな場所が多くあります。例えばセイシェル、ナミビアのウォルビスベイ、スペイン領カナリア諸島のラスパルマス、メキシコのマンサニージョなどです。
通常、寄港地では用意されたオプショナルツアーに参加するのが主流ですが、それに頼らず、自由行動をするシニアたちも多いのです。初対面同士でも瞬く間に同行グループが出来上がり、船内のあちこちで老若男女の小グループが作戦会議を行う様子が見られます。そして寄港翌日にはさまざまな冒険談が披露されます。
70代のAさんは、鮮やかなオレンジ色に染めた髪を自慢そうに見せながら、「この頭、いくらだったと思う?」と話しかけてきました。メキシコの港町で偶然見つけた散髪屋さんで、言葉がまったく通じない中、身振り手振りでカットと髪染めを1000円弱でしてもらったということです。
1人参加のBさんはリスボンで石畳につまずいて足を骨折、松葉杖をついていました。「若い人と自由行動したので、彼らのペースに合わせようと、ついつい無理しちゃって…」と明るく話します。「歩行が不自由だから、ニューヨーク(次の寄港地)ではセントラルパークで1人で昼寝して過ごそうと思うの」と何でもない様子で話していました。その自立心と冒険心には驚かされます。
シニア世代は時間的に余裕があり、健康意識も高いのが特徴です。
1人参加のCさん(80代)とは、イギリスの港町ティルベリーでパブ巡りの自由行動をご一緒しました。Cさんは毎日必ず2万歩以上歩くことを日課としているそうです。これまでにも何度かピースボートに乗船していますが、「最近は年をとって旅行仲間が減ってしまって、そろそろ国内旅行に切り替えようかと思っています」と少し寂しげでした。
レストランで相席になったDさんも1人参加。90歳とは思えないほど若く見えます。彼の信条は「決して無理をしないこと」。寄港日には下船せず、船から見える港町の水彩画を描くことを楽しんでいるそうです。
社会的関心の高さ
ピースボートは平和教育や紛争予防、軍縮、貧困対策などの分野で活動する国際NGOでもあります。船内では多くの娯楽イベントとともに、30組を超える「水先案内人」*による様々な講演会やワークショップが行われました。
多くの乗客の主目的は観光ですが、ガザの問題やロシアによるウクライナ侵攻、核兵器廃絶、環境問題、ジェンダーや人権をめぐる問題など、世界で起きている問題に関心を寄せる人も少なくありません。
一例を挙げると、中東問題の専門家で国際政治学者の高橋和夫さんの講演は、約400人収容のシアターが毎回満席になるほどの人気でした。国際情勢が緊迫する中、リアルタイムにわかりやすく専門家の分析が聞けるのはたいへん贅沢な経験です。
*クルーズ中に特別講師として参加し、講演やワークショップを通じて参加者に知識や経験を共有する専門家やアーチストなどの著名人や団体
船旅を楽しんでいたシニア世代の個人的な文化的嗜好はどのようなものなのでしょうか。
次回、「シニア世代の飽くなき冒険心と日本のサービス文化(後編)」で、ホフステード6次元モデルで紐解いていきます。
CQラボ フェロー
田代礼子
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