猫のチヨ子
我が家の次女(猫)チヨ子のこと
チヨ子はカレー子と同じくLOVE & Co.(ラブコ)さんからお迎えしたマダム。
恐らく年齢は上だと思われるが(推定12才前後)、我が家の一員となったのはカレー子より少し後のため次女とした。
チヨ子は子猫の頃から長年地域猫として暮らしており、お世話されていた方が高齢のためいつまで出来るかどうか、という相談がありラブコオフィス入りすることになった。
ラブコさんのコンセプトは保護猫がはたらく会社。猫たちは商品のモデルとして働き、自ら家族募集アピールをしつつ生活費も稼いでいる。
ちなみに今月からホームページがリニューアルされたそうだ。オリジナルデザインのパッケージが可愛い商品、ハンドメイド雑貨やセレクトアイテムが揃っており、思わず集めたくなるラベル付きのドリップコーヒーなどは贈り物にも大変喜ばれる。
もちろんチヨ子もモデルを勤め、現在も販売中の商品もあり家族として大変誇らしい。
こちらはチヨ子モデルのバレンタインカードと、ショコラ・ダ・ファミリアさんとのコラボレーションのCHIYOKOLATE。全国の文具店やショコラ・ダ・ファミリア下北沢店など店頭で見かけた際には是非手に取ってみて欲しい。
話が逸れたが、チヨ子の外生活時代について。
やるせない話だが、人馴れしている外猫は邪悪な人間により危険な目に遭う可能性がある。そういった考えもあり、お世話されていた方はあえて猫たちに話しかけたり触れ合うようなことはしてこなかったそうだ。
その甲斐あって、10年近く人間からご飯を貰っていたにも関わらず、チヨ子はなかなかの人間嫌いに育った。
そこまでアグレッシブな攻撃性はないものの、程々に遠い距離からでも人間の顔を見るだけで挨拶代わりのシャーを頂けるレベルである。
ただ彼女は猫のことは好きだった。誰かと一緒にいることが多く、臆病な猫のボディーガードをし、階段上で関所をこなしたりと働き者だった。
また雷が大の苦手で、空がゴロゴロと鳴り出すと途端に人間のいる部屋まで来てカチコチに固まってしまう可愛い一面も。(触ることは出来ない)
余程のことがない限りは人間がいる時間帯に同じ部屋に現れることはなく、歩いている姿を見られたらラッキー。付いたあだ名は"妖精"だった。
そんなキャラクターと、キレ長のクールな目と鼻下のちょび髭が特徴的な顔立ちも相まって、チヨ子のファンはかなり多かった。
とはいえ、人馴れが進まない大人猫の譲渡はもちろん決まりにくい。
保護されてから4、5年経過しても彼女の様子はほとんど変わらぬままだった。
個性強めなタイプの猫には熱烈ファンが多い傾向にあり、そんな方が内面やハンデすべてをひっくるめてお迎えすることを決心してくれる、そういうことがたまにある。こんなに幸せなことはない。
チヨ子にもそういう方が現れたら......なんて思っている時は、まさか自分がその相手になるとは夢にも思っていなかった。
転機は突然訪れる。
ラブコさんが神奈川から長野へ引っ越すことになった。
それに伴い一時的な猫たちの預かり場所を探すことになり、チヨ子の担当は当時スタッフだった私に決定した。
我が家での生活風景を発信することで、少しでも家族募集のアピールになればと意気込んでいたのをよく覚えている。
妖精と呼ばれていたチヨ子、家に慣れるまでも長期戦を覚悟していたのだが、意外にもすぐにケージから出て部屋を散策するなどかなり積極的に動くではないか。これには地味に驚いた。
オフィスで一時期同僚として過ごしていたカレー子がいることも嬉しかったようで、必死に後を付いていき甘えた声で呼び寄せていた。
どういう訳か人間に向かって何かを求めるように鳴いてくることもあり、数日で既に新たな一面も二面も見せてくれたのだ。
オフィス時代よりずっと距離が近いにも関わらず、人間のいる環境への順応の早さを見ると、この子は甘え方や関わり方が分からないだけで、人間がとにかく嫌いというわけではなかったのかもしれない。
残念ながらカレー子はベタベタした付き合いを好む猫ではなく、すべてのコミュニケーションを無視され逃げられたまに殴られ(割としつこくはあった)、ひとり佇むチヨ子の姿は相当切なかったこともあり、変化の可能性を感じていた我々は少々強引にでもスキンシップを強化していくことにしたのだった。
まずはケージ越しに孫の手で触れてみる、孫の手に慣れたらどさくさに紛れて手で一瞬触れてみる、通りすがりにお尻辺りを知らん顔して触れてみる、カレー子を目の前で撫でまわして手に危険が無いことを見せてみる(この辺りでお尻辺りのお触りは許されるようになった)、爪を切った上で正面から手を差し出してあえてパンチを食らいまくってみる、ちゅーるを付けた指を差し出してみる。
上手くいった時もあったが、もちろん幾度となく流血沙汰にもなった。大怪我をする可能性も大いにあるため特に終盤のやり方は参考にはしないで欲しい。
ただチヨ子の場合、手に対する恐怖心を拭うのにパンチを食らいまくるという戦法はかなり効果的であった。
数回繰り返すと明らかに手への警戒心が薄れていくのが分かり、正面から手や指を差し出すと激怒していたのが、匂いを嗅いだりすり寄ってくれるようになったのだ。
一度そうなってからの展開は早く、全身のお触り、抱っこ、添い寝、次々と出来ることが増えていった。
そして我が家に来てから1年余り。完全に壁が崩れた彼女は、お喋りで少しだけ気難しい、ただの甘えん坊な猫になった。
面白いことに、チヨ子は人間の女性より男性が好きなようだ。
女友達が家に遊びに来た際はすぐに逃げて身を潜めているのに、男友達だといつも通りに過ごし、なんなら自ら近寄っていく。
ブライアンが常に在宅している我が家の環境も相性が良かったのかもしれない。
チヨ子がここまで心を許してくれ、そしてもうその頃には我々も彼女のいない生活は考えられなくなっていた。
猫は、同じ空間に共存しているだけで可愛く有難いものだ。
人馴れ修行を試みて、その結果変化が無くとも別に構わない。その猫の生き方がそうなのであれば尊重したいと思う。通院時の捕獲や緊急時等の人間の力量は必要だが。
ただ保護猫たち、特に大人猫の可能性は人間には計り知れないものがある。
チヨ子のように180度変わるかもしれない、90度くらいかもしれない。
ほとんど変わらないように見えて、自分だけが気付く変化があるかもしれない。
それを毎日一番近くで観察出来ることは、大変興味深く貴重な経験ではないだろうか。
変化することに年齢は関係ない、チヨ子が身をもって教えてくれたことだ。
ゆい
※この記事での写真はLove & Co.さんよりお借りしました