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ブルターニュ幻想旅行 NIGHT LAND vol.31 エピソード

 2022年晩秋、思いがけない連絡があった。2003年3月に実行した「フランス・ブルターニュ7日間の旅 ケルト・アーサー王・妖精『世界妖精展』を訪ねて」について、雑誌『ナイトランド・クォータリーvol.31』に掲載することになったという。この号はアーサー王についての特集になるそうだ。

『ナイトランド・クォータリー vol.31 』
往方の王、永遠の王〜アーサー・ペンドラゴンとは何者だったのか

2023年1月13日 発売開始

 見本誌が届いたのだが、浅尾さんの「フランス・ブルターニュへの幻想旅行の思い出」は12ページ。そのうちの6ページがカラーで写真もたっぷり掲載されている。


世界妖精展の開催決定

 なぜこのような旅を企画することになったのかというと、ブルターニュ西部にあるダウラス修道院 L'abbaye de Daoulasで妖精展が実施されたのがきっかけだった。こちらでは1986年から文化協会主催で毎年大規模な企画展が行われている。例えば86年は「ケルト」、88年は「ケルト以前の欧州青銅器時代」などが開催されている。

 そして2002年12月7日〜2003年3月9日までが「世界妖精展」だった。
”Fées, elfes, dragons & autres créatures des royaumes de féerie”
世界中の美術館から妖精関連の絵画が集められた。その中には井村君江さんが所蔵していた絵画も含まれていた。

 井村さんは英文学者であり、妖精学の著書を数多く出版されている。私はフェアリー協会の会員であるご縁で2002年夏に英国に滞在されていた井村さんとお会いしていたので、ご本人から「世界妖精展」開催の連絡をいただいた。 

フランス・ブルターニュ地方に息づくアーサー王伝説

  アーサー王ゆかりの地は英国にしかないと思っている人が多いだろうが、円卓の騎士ランスロットはブルターニュ生まれだし、トリスタンもブルターニュで暮らしていたから、各地に伝説が残っている。

 その中でもランスロットやメルランの逸話があるブロセリアンドの森 La forêt de Brocéliandeについては田辺保さんの名著『ケルトの森・ブルセリアンド』が出版されている。同じく『ブルターニュへの旅』にはトリスタンとイズーの悲愛も綴られている。Topの写真はトリスタン島だ。


現地視察と旅の下準備

 ブルターニュ在住とはいえ私の暮らすレンヌ Rennesはブルターニュでも東部。旅のメインとなるのはフィニステールと呼ばれる西部地域だった。ラ岬までは約280kmあるので、数カ所巡ると泊まりになる。

 それに日程表を組むには、きっちり時間を計る必要があった。特に案内したい場所は深い森の中だった。列車やバスでは途中までしか行けない。今ならインターネットを通じて必要な情報は瞬時に手に入るし、自分でレンタカーを借りて2週間もあれば全て下見を完了できるだろう。

 しかしこのころはスマホもなかったし、Wi-FiどころかADSLも普及していなかった。またフランスで車を運転する自信もなかった。したがって知人に片っ端から「連れて行って」とお願いした。地図を手に入れ拡大コピーして、森の中の細い曲がり角や小さな標識を見落とさないよう何度も現地に足をはこび迷子にならないよう頭に叩き込んだ。見てもらいたくても歩く距離が長いと日程からは外せざるを得ないのが辛い。

ブルターニュでぜひ飲んでほしかった:魚のスープ


 日程が大体決まると、食事をするクレープリーやレストランを選び、毎日のメニューがかぶらないよう調整したり、宿泊するホテルも選ぶ必要があった。せっかく日本から来てくださる参加者にブルターニュの美味しいものを食べてほしいし、景色が美しく居心地の良いホテルに泊まってほしい。とにかく楽しい思い出を持ち帰ってくれるよう、できるだけの準備をした。そしてレンヌからブレストまでTGVで移動し、ブレスト空港からいよいよ旅が始まった。

ケルト・アーサー王・妖精『世界妖精展』を訪ねて


 ◆「世界妖精展」

 ダウラス修道院に到着すると展示会の企画に携わったクロディーヌ・グロさんが我々を出迎えてくれジュースで乾杯。会場には世界各地の妖精に関する絵画、オブジェなどに加えて映画、書籍、コミックなどが所狭しと並ぶ充実ぶり。

 山腹の洞窟や丘、水辺などにそっと暮らしている妖精たちがいきいきとリアルに描かれている様に感動を覚える。どの作品もじっくり鑑賞したいが、とにかく目に焼き付けて詳しい解説は図版で確認する。時間が経過しているので日本では手に入らないだろうと思いつつ検索してみると、Amazonから購入できる(フランス語版)ことがわかった。 

  なおダウラス修道院には1167年から1173年に建築されたロマネスク様式の回廊が残っている。12世紀のものはブルターニュでもここにしかない。また庭園には中世とルネサンス期の薬草園が再現されている。


 ◆摩訶不思議な彫刻群のある教会

プレイバンのカルヴェール

 人口の少ない村でも中心部には必ず教会か礼拝堂がある。カトリック教会は内部だけでなく外部にも彫刻があるが、アンクロ・パロアシアル Enclos paroissial (教会囲い地または聖堂囲い地と訳されている)はブルターニュの西部独特だ。凱旋門、カルヴェール(キリスト磔刑像)、教会、納骨堂、墓地、などが塀で囲まれた空間のことを指す。

 組紐紋様、渦巻き紋様などケルト関連の彫刻、怪物としか表現しようのない彫刻、さらに死神、ドクロ、人頭、また非常に稀なシーラ・ナ・ギグの彫刻までもが教会の柱に刻まれているのだから驚くしかない。

 ◆伝説の残る森

◉ユエルゴアットの森  (アーサー王と円卓の騎士、聖母マリア、悪魔、ガルガンチュアなど)
妖精や精霊が住むに違いない神秘の森。苔むす岩がゴロゴロしていて清らかな清流に沿って散策できる。

◉ブロセリアンドの森(騎士ランスロット、騎士イヴァン、魔術師メルラン、妖精ヴィヴィアン、モルガン・ル・フェ、ドラゴン、巨人、白い貴婦人など)
コンペール城はアーサー王伝説の博物館となっていて、講演会やコンサート、セミナーなどが開催されている。

*2022年8月、欧州は猛暑が続き、火災が頻繁に起きていた。そしてブロセリアンドの森9000ヘクタールのうち、Campénéac周辺の400ヘクタールが燃えた。悲しいことに掲載記事のうち写真㉘ 巨人の墓 Tombeau du Géantと呼ばれている紀元前2000年前の史跡が焼失してしまった。消防士たちが連日必死で消化活動を行なっても勢いを止めるには至らず、炎はトレセッソン城 le château de Trécesson のすぐ近くまで迫った。このニュースを聞いて毎日気が気でなかったが、なんとかギリギリで消し止められた。

Incendie en forêt de Brocéliande : quels sont ces lieux de la légende arthurienne qui sont menacés france3

  ◆死者の魂が戻る海

ラ岬の沖合にラ・ヴィエイユ灯台が見える

 日本では秋に台風がやってくるが、ブルターニュの海が荒れるのは真冬。歩いていても何かをつかんでいないと立っていられないような強風が吹く。ラ岬 La pointe du Razあたりの海は岩場が入り組んでいて海難事故が度々起きている。岬のすぐ西側のトレパッセ湾には死者の日にさまよえる霊が戻ってくると言われている。

 ◆カルナック列石(世界遺産)

巨石で埋め尽くされた平原

 巨大なメンヒルが立ち並ぶ。総延長は4キロ!どのような用途に用いられたのか、まだ解明されていない。

◆モン・サン=ミシェル(世界遺産)

カフェでくつろいでいる井村君江さん

 厳密に言うとブルターニュではなくノルマンディーに位置する。パリからTGVでレンヌまで来て、そこからバスで行ける。島の中にはエレベーターはなく階段が続くので、井村さんにはカフェのテラスで待っていただくこととなった。天候が良かったのがせめてもの幸い。昼食は名物のフワフワオムレツだった。

訂正箇所

 一つだけ気になる表記があるので記載しておく。
写真⑤のギミリオーにブルトン語と注釈があるがフランス語だ。
・Guimiliau フランス語
・Gwimilio ブルトン語


あとがき

 振り返るといつの間にか20年の歳月が流れていた。ブログは2004年に開始したので、この旅については何も書いていない。内容を知っているのは参加者だけだった。それがまさか事細かに雑誌に掲載される日がくるとは夢にも思わなかった。記事を読んでブルターニュに興味を持ってくれる方が増えれば嬉しい。

 まだケルト・アーサー王・妖精というテーマでブログにも書いてないとっておきの場所が沢山ある。ブルターニュを案内してほしいという稀有な方がいらっしゃるならどうぞ連絡を!

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