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中庸のこと、白梅紅梅七分咲き
少し体調を崩して、数日ほど散歩を休んだ。布団の中で『中国古典名言事典』をてきとうに開くと、知らない古典『忠経』のページだった。
「忠は中なり、至公私なし」
ここでいう中とは、中庸のこと。つまり私情を排し偏りなくバランスのとれた選択、行動、思考をすべしという意味になる。
常に中くらいを選べ、普通を行けという意味とは似ているようで異なる。その真髄は一歩引いたところから物事を見る、俯瞰の視点の獲得にあると思われる。
物事を俯瞰でみることは、その物事においての物差しを得るに等しい。地図でいうならコンパスを得たともいえる。基準がわかれば大きな失敗はしにくくなる。あえてそこから外れてみたり極端に偏ることも、意図や理由ありきの選択肢として選べるようになる。
たとえばファッションで個性的であろうとするなら、何が普通で平凡なファッションなのかを理解していなければいけない。何事も独創性だのオリジナリティだのを主張する前に、世界を俯瞰で見る必要があるのだ。
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今週のおすすめ本
『山椒魚』井伏鱒二
井伏鱒二の初期短編集。作品に意味や主張を求めるのは野暮だが、それが一見わかりにくい作品は総じてとっつきにくさがある。しかしこの短編はどれも読みやすく、不思議な世界観には妙な中毒性と魅力があった。
美しい自然描写とヤマなしオチなしな物語は、何かを伝えようというより作品そのものを「美」として見せようとしている風に感じた。その観点でいうなら個人的には「朽助のいる谷間」「へんろう宿」「寒山拾得」「屋根の上のサワン」がよかった。
余談。全体的な雰囲気が漫画家つげ義春の作品に非常によく似ている。つげさんはたぶん井伏鱒二に影響を受けている。