【ショートストーリー】世界中の人々が滅亡とループを自覚した世界を描いた短編
終末は週末に
死のう。
死んで全てを終わらせよう。
夜にかけるとか、生きていたんだよなとか。
とにかく死にそうな音楽をかけ、テンションを上げながら階段を昇る。
私の走馬灯は、どんなだろうか。
走馬灯って、そもそもどのタイミングでどんな尺で流れるのだろうか。
私は、これから死のうと言うのに、そんなことを考えてワクワクしていた。
ビルの屋上のフェンスを乗り越えて下を眺める。
そして
ふと気が付くと逆さまの景色が、頭から足に向かって流れていった。
そうか。
私もう、死ぬのが怖くなくなってたんだ。
私の足は、フェンスを乗り越えた後、何の躊躇もなく空を踏んだ。
きっと、今私は笑っている。
向かいのビルの窓に、うすぼんやりとそんな表情が映った。
あ、走馬灯、流れてないじゃん
気が付くと私は、ベッドで朝を迎えていた。
病院の?
違う。
自宅の。
私は確かに死んだ。きっと即死だっただろう。
でも、戻った。
私が死んだ二日後、地球は死ぬ。
隕石が衝突して、何もかもがなくなる。
そして、私が死んだ5日前に、こうやって戻ってくる。
それをもう、何十回も繰り返している。
「繰り返します。死んでも何も解決しません。とにかく、最期まで生きてください」
そして、世界はもうこのことを知っている。
少しずつ少しずつ、それは皆に広まっていった。
このループは、一度自覚してしまうと、意識が繋がり続けるらしい。
私が自覚してから、既に何十回。
私が最初かもしれないし、もう何万回もループを繰り返しているのかもしれない。
皆が自覚し始めた頃。
まず、秩序が崩壊した。
そりゃそうだ。
どんなに悪いことをしても、
一週間後には晴れて自由の身なんだから。
それから、誰も働かなくなった。
オンラインゲームの同時アクセスが爆発し、サーバーがダウン。
それでも、サーバーを治すために働く人もいないから、オンラインゲームはあっという間に廃れた。
それから、ボードゲームやらトランプやらが流行って、
そして、
自殺が流行った。
そりゃそうだ。
どんなに巨万の富を得ても、
どんなに世紀の大発見をしても、
どんなに素敵な恋が実っても。
どんなにどんなにどんなにどんなに
必死に生きても。
一週間後にはリセットされてしまうのだから。
頑張った分、楽しかった分。
苦しかった分、嬉しかった分。
終末明けがしんどい。
だから、月曜日は自殺者が絶えない。
神様も意地悪だ。わざわざ日曜日に地球滅亡させなくたっていいのに。
ちゃんと月曜日が憂鬱だ。
今回は何をしよう。どうしよう。
そんなことを考えるのは、もう飽きた。
だから、私はまたこうして屋上に来ている。
このビルは、私だけのものだ。
何回も何回も、ここで私は、私だけの最期を迎えていた。
はずだった。
え、
どうして?
何で人がいるの?
「良かった。誰か来てくれた」
フェンス越しに彼女は、そうにっこり微笑んで、そして消えていった。
ふざけるな。
私は、誰も来ないからここだったんだ。
最期くらい、誰のものでもなく、誰とも同じじゃなく。
私だけの最期を迎えたかったのに。
ここは、私だけのものじゃなくなってしまった。
私は、新しい私だけを探して街を歩いた。
こういう時、終末はいい。
誰がどこで死んだのか、一目でわかる。
あそこもダメ、ここもダメ。
遂に私は、私だけの死に場所を見つけられないまま、日曜日を迎えてしまった。
ああ。またあの月曜日が来るのか。
そう考えた時、フフっと笑ってしまった。
結局、考えることは終末も週末も変わらない。
私は早めに布団に入り、さっさと月曜日に戻ることにした。
そして私は、元通りの月曜日を……
元通りの……
元……あれ?
急いでテレビを点ける。
「昨夜、ついに隕石の迎撃に成功し、無事、地球の危機は回避されました」
おいおい。何勝手なことしてくれちゃってんのよ
終末は去り、ただの週末になってしまっていた。
とは言え。社会機能がすぐに戻るわけもなく。私は街を歩いた。
道路に吐き捨てられた死体(終末)(※文は死体、読みをシュウマツにしたいです。)を、
慌てて回収している人たち。
あれ? ワタシ、なんで生きてたんだっけ?
あー。そうか。そうだったのか。
私は、どんな月曜日が来たところで、やることは変わらないのだ。
《終》