【短編】自転車のカゴに毎日パンツが放り込まれる謎
赤と黒
1枚 2枚 3枚 4枚 5枚……9枚。
10枚には1枚足りないけど、皿屋敷のお岩さんの話をしたいわけじゃない。
赤 黒 赤 黒 赤 黒 赤・・・
「赤と黒」といえば有名な小説があるし、
レミゼには「Red&Black」なんてナンバーもあったっけ。
でも、小説もミュージカルもまったく関係ない。
これは、パンツの話だ。
ここに9枚のパンツがある。
赤が5枚、黒が4枚。
自分では絶対に選ばない、どぎつい破廉恥なパンツが1日1枚、必ず自転車のカゴに入っているのだ。
最初は、風で飛ばされてきた洗濯物だと思った。
でも、次の日もそのまた次の日も、同じ自転車のカゴに風でパンツが入るなんて偶然、あるわけがない。
ハトが巣作りでもしているのかとも思った。
でも、ハトの姿は見当たらない。
風や鳥の仕業ではないと確信したのは、3日目だ。
カゴに入れられるパンツには使用感がまったくない。
よく見ると、新品だった。
値札のタグは丁寧に切り取られている。
あきらかに、人の手によるもの。
いったい誰がこんなこと・・・
ストーカー? まさか!
痴漢やストーカーに遭うのは、自分に隙があるからだって父さんと母さんが言っていた。
だから、服装も化粧も質素を心がけてきた。
変質者に目をつけられる隙なんて、どこにもない。
あ、でも・・・
コールセンターに勤めていたとき、しつこくパンツの色を聞いてくる客がいたっけ。
親にバレたらお前が悪いって怒られそうで、すぐに辞めちゃったけど。
まさか、あの客が?
「被害届? パンツをもらっただけだよね?」
警察に相談すれば解決すると思ったのに・・・。
パンツを盗まれたわけでも、パンツを触られたわけでもない。
何の罪になるのか分からないそうだ。
破廉恥なパンツを押しつけられて迷惑だと訴えてみたけど、
「新品なら使っちゃえば? 口紅の色に合うんじゃない」
と鼻で笑われた。
ちょっと待って。口紅に合うってどういう意味?
手鏡をのぞくと、見たこともない真っ赤なルージュをつけたわたしがいた。
何、この真っ赤な口紅。
それだけじゃない、真っ赤なマニキュアにど派手なアイシャドウ!
なんでわたしの部屋に、まったく記憶のないものがあるの?
留守中に、誰か部屋に入った?
この破廉恥なパンツといい、何かがおかしい。
信じたくないけど、やっぱりストーカーに狙われているのかもしれない。
警察は相手にしてくれないし、どうしよう・・・。
かれこれ1時間も自転車を見張っている。
あんな破廉恥なパンツを放り込むなんて、許しがたい行為を続ける変態ストーカーを捕まえるためだ。
犯行を見届けたら、即110番できるようにスマホを握りしめて。
昨日が赤だったから、今日は黒だ。
黒いものを持つ人に目を光らせる。
黒いバッグに黒いスマホ、黒いハンカチ・・・。
なかなか黒いパンツを持つ犯人は現れない。
日が暮れ、家路につく人たちが次々に自転車に乗って帰っていく。
結局、深夜0時になっても犯人は現れなかった。
相変わらずパンツは増えていく一方だったが、対策もできず、途方にくれていたときだ。
目の前に、あの日の警官が現れた。
ようやく、警察が動いてくれた!
ホッとしたのもつかの間、腕を鷲掴みされた。
「・・・話を聞いてくれるんじゃ?」
「その前に、カバンを見せてもらえますか?」
なんか物々しい雰囲気。
なんでカバンを見せる必要があるんだろう。
断りたかったけど、警官はそうはさせないオーラを発していた。
渋々カバンの中を見せる。
「なっ、なんでこんなものが!?」
カバンにはほかでもない、あの破廉恥な赤のパンツが入っていた。
「万引きの現行犯で逮捕します」
服装や化粧で着飾るなんて、媚びるみたいでいやらしい。
ましてや男を誘惑するような、破廉恥な下着なんて!
ずっとそう思ってきた。
でも、本当は・・・
どこかで憧れていたのかもしれない
破廉恥な下着を身に着けてみたかったのかもしれない。
おわり