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色がついているかどうかわからない、記憶の中の光景。
その中で急にカラーの光景、いや、そこだけカラーだったりする場面がある。
別にそんなに大事じゃない色だと思う。雨上がりの道、水たまりに移っている建物の間の空の色。よく行っていたデリの軒先のスツールと、その前の教会のレンガのなんとも言えない赤色がかった暗褐色。そんな日常の色、日常にある色、あった色。なのに、同じような色を見ると、ぐぐっとその時の、その場所に私を連れて行く。
なんともいえないパッセージ感。
中でも忘れられない色は、昔住んでいたマンションの廊下の色。そのマンションは階ごとに廊下の色が違っていて、私達の部屋のあった5階はオレンジ色で、私の初めての自転車もオレンジ色で、私の毎日はオレンジ色だった。
私がオレンジ色が好きなのは、ドアを開けると毎日ぱっと目に飛び込んで来た、あの明るいマンダリンオレンジの色、あの色に帰るからだ、きっと。
映画も色で見るクセがある。あのシーンの、カップの色、カーテンの色、食卓の料理の色、縁に飛んだトマトソースの色。ストーリーテリングに関係あるのかないのか、わからないメタファー。
ナツカシイな…映画を見て、語り合う。目の前のカプチーノの色。