「雛形」の功罪
今日は自分への戒めをたくさん込めて、契約雛形について書きたいと思います。(冒頭の写真は近くのハイキングトレイルです。左に太平洋、右にサンフランシスコ湾が一望できるところです。シリコンバレーは「谷(バレー)」だけでなく山もとても多いです。)
とある経緯で最近、ある企業の「雛形契約」を拝見する機会がありました。程度の差はあれど、誰しも「うわ、すごっ。読めん。」という経験があると思いますが、今回見たのは私の中ではかなり上級の上をいく、読む気力を大きく削がれるものでした。
簡単な業務委託のはずが、雛形はありとあらゆる業務を想定したタイプのものとお見受けしました。個人に依頼する単発の仕事、専門業者に発注するプロジェクト、外部企業に長期R&D開発委託をするものまで、すべてのシナリオに対応可能な汎用性を第一目的にしている感じでした。
冒頭に書いたように、自分への戒め、「他人のフリ見て我がフリ直せ」をたっぷり含めて「これはいかんな」と思いました。
雛形の一番の功罪は何か。
「思考を止める」
ということだと思います。
雛形だから、念のためいれておこう。
雛形に昔からいつも入ってたから意味不明だけどそのままにしたおこう。
雛形としてスタンダードみたいな雰囲気だから、自分達の業種には関係ないけど入れておこう。
雛形として弁護士が使ってたものだからそのまま使いまわそう。
これを何年か繰り返すうちに、契約文面は増幅し、説明不可能な部分が増え、現状にそぐわない条項もそのままになり、何が必要・重要で何が必要・重要でないのか説明しにくいものになり。。。
「うちの雛形って、あんまり良くないよなぁ」と法務担当者が思ったとしてもどこから手をつけて良いのやら。そんな時間ないし。そもそも業績に役立つような作業じゃないし。
というわけで雛形はちょっとした歪みとか凸凹をそのままに成長し続けます。それはとっておく意味がないものも断捨離できず放置され、肥大化してく押入れボックスの中身に似ているじゃないかと思います。
そんな雛形契約でも、一番の存在意義である「あまり深い議論なく物事が進む」を立派に果たし、案件は問題なく進み、お金は支払われ、誰にも何の不都合も発生せず終わります。
なので雛形はそれでいいんだ、とも本当に思います。
私も自分の業務の中でも何度となく「雛形だからいいや」「こういう雛形よくあるからまあいいよ、これで」と横流ししてきています。これからも何度となく、その無意味な作業をすることと思います。
「弁護士の作業はエンジニアのコーディングの作業に似てる部分がある」とあるエンジニアの方に言われたのですが、確かにそうかもしれません。全体で理論の一貫性を通し、矛盾をつくらないようにする。短いコードで同じことができるなら無意味に長いものを使わない、等々。
「きれいなコードだな」とエンジニアを唸らせるのと同じように、「きれいな契約だなぁ」と思ってもらえるような「最高にいけてる雛形」を提示する側に立ちたいな、と目標意識だけは捨てずにいたいな、と思っている次第です。
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雛形へのぼやきでこのNoteが終わるのも何なので、英語の表現をおまけでつけておきたいと思います。どちらも雛形契約の話に通じるものです。
"Kitchen Sink"
という表現があります。直訳は「台所の流し」ですが、意味合いは「なんでもかんでも放り込む場所」というものです。「you're treating it like a kitchen sink」と言われたら「そんなに乱暴にぼこぼこ放り込んでいいのか」と諭されていると考えていいと思います。Kitchen Sink的に「とにかく全部いれておきました」という感じの契約書、誰しもどこかで目に触れたことがあると思います。
"Belts and Suspenders"
「ベルトとサスペンダーを両方使う」=つまり念には念をいれて二重保護をする、というものです。「Why do we say the same thing in two different ways? That's just belts and suspenders, so we should be able to get rid of one of them」というような会話で使われます。重複することで逆に曖昧さを残す可能性もある(どっちが本当かわからなくなる)ので、それよりは一つにスパッと絞った方がいい、という考え方です。これを当てはめると、多くの雛形の20−30%はカットできるような気がします。
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最後に、英文契約作成をする方に便利(かもしれない)なツールをご紹介。MS Word等多くの文書作成ソフトに組み込まれてる事もあるのでご存知の方もいるかもしれないですが、「読みやすさテスト」というものがあります。複数種類があって、一番有名なのが「Flesch–Kincaid (F-K)テスト」です。文章の長さ、使われている単語や表現を分析して全体的な読みやすさを見て「この文章を理解するのに必要な教育年数」に基づいた点数をつけます。もともとは軍事マニュアルの読みやすさを計るツールとして作られ、他の分野でも使われるうになりました。一部の州では「消費者向けの保険文書はF-Kテストで何点以上であるべし」という規制にも使われています。
多くの人の目に触れるオンラインサービスの利用規約の点数を出してみました。(スコアが高いほど読みやすいものです。)
Facebook:32.39
Twitter:37.67
Google: 33.21
Amazon:45.32
Amazonさん、これだけ見ると優秀ですね。
30点以下だと「大学院に行った人でないと理解できない。非常に読みづらい」ものです。30−50点は「大学レベル」、50−60点が「高校レベル」、60−70点が「Plain Englishで誰でも読める」ということになります。(スコアはこのリンクから「テキストのコピペ」またはURL指定で簡単にできます。)
ちなみに前述の雛形の読みやすさスコアは「17.32」でした。「とてもとても読みにくい」が正式認定されたので、私の最初の印象はさほど外れてなかったのかな。
今日も読んでいただきありがとうございました。
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