動物用ベンチレーターの紹介
今回は動物手術に用いられるベンチレーターについて書いていきます。
ここでは医療用よりも、実験用の機器として使われるベンチレーターの基礎知識や機能を中心にご紹介していきますので、ご了承ください。
●人工呼吸器の構造
人工呼吸器は動物の自発的呼吸が困難な場合や、吸入麻酔の継続投与などに用いられます。
例えば後でも触れるHugo Sachsの人工呼吸器だと、シリンダー内に溝付きのピストンが入っており、回転運動とピストン運動の組み合わせで空気の送り込みを行っています。
●ベンチレーター周りで出てくる単語
Tidal Volume (TV) 一回換気量
一呼吸あたりで送り込む空気量。マウスの場合は100~200 µl程度(3-10 ml/kg)
Respiratory Rate呼吸レート
呼吸数。マウスの場合は25℃の環境で150~220回/分だが、温度が高いほどレートが小さくなる傾向あり。
Peak Inspiratory Pressure(PIP) 最大吸気圧
肺へ空気を送り込んだ際の気圧ピーク。cmH2Oで算出されることが多い。
人工呼吸を行う際は、過剰なPIPによる肺の損傷リスクがあるため、換気量に注意する必要がある。
Positive End Expiratory Pressure(PEEP) 呼吸終末陽圧
一部のベンチレーターには呼気の終わりに陽圧をかける機能がある。肺はつぶれると空気を入れても膨らみにくくなるので、ある程度圧力を残すと良い。また、つぶれた肺に圧力をかけると摩擦が発生し、損傷するのでその対策にもなる。
Sigh 深呼吸機能
常時定期的な換気のみだと肺サーファクタント(潤滑剤)の不活化や喪失が発生し、肺が損傷する原因になる。一部のベンチレーターでは、時々深呼吸を入れてサーファクタントの機能を維持することができる。
I:E比 Inhalation:Exhalation、吸気時間と呼気時間の比。
一般的にその比率は1:1だが、一部ベンチレーターではその調整が可能。
●ベンチレーターを使用する際の注意事項
・PIPをかけすぎないよう、一回換気量は適切な値にすること
圧コントロールの機能があるベンチレーターは、適切なPIPに設定できる。ただし、開胸手術を行う場合は、肺がしぼんで圧コントロールがうまくいかないので、拍出量でコントロールをすることになる
・イソフルランなどの吸入麻酔を使用する場合は、麻酔濃度を安定にするためバッファーを設けること
ここからは弊社が扱っている人工呼吸器を二種類ご紹介します。
ほかにも様々な機種がありますので、併せてご検討ください。
●Harvardベンチレーター
Harvard Apparatus VentElite ベンチレータ (brck.co.jp)
数種類ありますが、いずれも調整できるのは一回換気量と呼吸レートのみになります。
構造と使い方はとてもシンプルで、MiniVentやMicroventには接続方法が本体に記されています。
これらは小さく頑丈で、振動やノイズが発生しません。卓上で手術をするうえではとても扱いやすい機種です。
●VentElite
Harvard Apparatus VentElite ベンチレータ (brck.co.jp)
こちらはタッチパネル式で、見ただけでなんでもできる賢そうな機種だと分かります。
機能としては:
・ボリュームモードと圧コントロールのモード両方に対応。
・PEEPの設定が可能
・PIPの上限を設定し、上限を超えた際にアラームが鳴らすほか、呼吸器を止めることができる。
・Sigh機能
・I:E比の調整
・マウスからモルモットまで使用可能
があります。
よりデリケートな手術やバイタルサインの観察が必要な際にうってつけです。
●参考文献
Translational Role of Rodent Models to Study Ventilator-Induced Lung Injury - PMC (nih.gov)
_pdf (jst.go.jp)