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映画『ミッドナイトスワン』を観て、小説を読んで感じたやるせなさと怒り

映画はずいぶん前に観ていたけれど小説も読みたくなって最近読んでみた。
映画ではあまり細かく描かれていなかったことも小説から知ることができて感じたことを書いてみたくなった。


あらすじ

故郷の広島を離れ新宿のニューハーフのショークラブで働いているトランスジェンダーの凪沙

ある日、凪沙は母親から
親戚の虐待されていた12歳の少女、一果を無理やり押し付けられて預かることになる。

一果は凪沙の母の妹の娘
(凪沙のいとこの娘)

19歳で一果を産んだシングルマザーの早織は酒に溺れ
生活は荒れ放題で娘のことをネグレクトしていた。


凪沙は故郷の母に一果を少しの間でいいから預かってくれと一方的に頼まれる。

凪沙は母にも親戚にも自分がトランスジェンダーだということを隠して東京に就職して出てきていたので、母は凪沙のことを男として東京で働いているとずっと思っていた。

男の親戚だと思って凪沙を頼って東京に出てきた一果は
女の格好をしている凪沙を見て一瞬戸惑うが、母から虐待されていた一果の心は石のように硬くなっていて無表情だ。

『どうでもいいや』と思考を止めてしまう。

母からネグレクトされてきた彼女はすぐに諦めることを身につけて
誰にも期待しない生き方を覚えたのかもしれない。

そんな一果のことを渋々面倒を見ることになった凪沙も
一果と同じように社会や人に対して期待をしていない。

マイノリティーのトランスジェンダーとして生きることは多くを期待してはいけないかのように凪沙は新宿の歌舞伎町でひっそりと生きている。

凪沙の夢はお金を貯めて
タイで性転換手術を受けて
女性の身体になること

それ以上でもそれ以下でもない。

一時的に一果を預かることで養育費をもらえる条件で引き受けただけ。

親に虐待されて暗い表情の
一果を見ても凪沙は何の情も湧かなかった。

そんな薄幸の一果だったが
バレエだけはたまらなく大好き。

生まれながらにすらっとした手足をもち
恵まれた容姿だけでなく
バレエの才能も
世界的なバレリーナになれる素質をもった一果。


レッスンに夢中な一果


ある日、バレエを踊る一果のキラキラした表情を見た凪沙は彼女のバレエの才能を伸ばしてあげようと決意する。

コンクールの参加費用やそれらにかかる衣装代など
バレエを本格的に続けるのはとてもお金がかかるのだが

バレエが大好きな一果のために凪沙は昼は男性として倉庫で働き、夜は女性としてショーパブで働くように。

バレエをこよなく愛する一果と彼女を思う凪沙の関係は
雪解けするように徐々に変わっていく・・・

ちゃんと野菜も食べるのよ

そこには一果の才能を見出した実花という熱心なバレエの先生との出会いや
一果がバレエを通して初めてできた友達、りんという少女と過ごした時間も
大きく影響を及ぼしていた。

バレエを通して凪沙と一果は初めて未来に希望を持ちはじめたのだが・・・

自分のことよりも大切なものや守りたい人ができたとき
人は強く優しくなれるのだろうか。
それは凪沙だけでなく一果にとってもそうだったのだ。


あの子の可能性を潰したくないの・・・(凪沙)


実はこの『ミッドナイトスワン』私は映画を観てから時間がしばらく経っている。



一果がバレエを踊るシーンはとても美しくて、心を打たれる。

この作品は、凪沙と一果の
類まれな絆の感動の物語だ。

しかし、凪沙の人生の結末があまりにも哀しくて
映画のラストを受け入れるまでに私には時間が必要だった。

たぶん、私はしばらくはこの作品を心のどこかにしまって
そっとしておきたかったのかもしれない。

そして、それからかなり時間を経て今回は小説も読んでみた。

小説を読みながら映画のシーンも時々フラッシュバックしたりして
哀しくなったりやるせない気持ちもしたけれど

小説ではショーパブで働く凪沙や彼女の仲間たちに対する
お客や彼女たちを利用しようとする男たちの酷い振る舞いが細かく描写されいて、彼らに対して私は映画よりも強い怒りがふつふつと湧いて仕方がなかった。


それらの男たちは自分よりも相手を下だとランク付けした途端に彼女たちにあんなにも酷い言葉を投げたり
態度ができるのかと無性に腹立たしくて・・・

『お金を払っているんだから』

『俺は客なんだから』

『何を言われても、何をされても我慢しろよ』

『お前はどうせ改造人間なんだろ』

という横柄な男たちの態度に

凪沙たちにも心があることを想像しようとさえしない男たちに無性に腹が立ち、弱者に対して強い態度で振る舞う卑劣な者たちの汚さや下品さに嫌悪感を覚えてしまった。


『うちらみたいなんは
ずっとひとりで生きていかんといけんのじゃ
強うならんといかんで』

凪沙が一果に言った言葉に胸が痛む。


選択肢がなくてひとりで生きていく

なんて悲しい言葉なんだろう

ごめんなさい
感想文とは少し離れてしまいますが
「多様性(ダイバーシティ)を大切に」や「弱者に優しい社会を」と耳障りの良い言葉に少しうんざりしている私の怒りや、やるせない気持ちをこの『ミッドナイトスワン』を通じて今日は吐き出したかったのかもしれません。

どんなに立派なスローガンよりも

『もしも私があの人だったら・・・』と考えて
その人の立場や気持ちを想像することぐらいしか
非力な私には出来ないけれども。


映画のタイトルの『ミッドナイトスワン』

真夜中だけは美しいプリンセスになれる
けれども朝が来るとボロボロな現実が訪れる・・・



トランスジェンダーの凪沙役になりきって演じられていた草彅君の演技に心をつかまれた。
一果の踊るバレエの白鳥の湖の姿もため息が出るほど美しかった。

でも、私は苦しかった。

心が絶えず締めつけられるような胸が詰まるような思いで
この映画をずっと観ていた。

涙がとまらなかったラストの回想シーン
久しぶりに号泣した映画だった。

一果と凪沙はやっと再会できたが二人に残された時間は短くて・・・


凪沙のような人も、いや誰だって本来の自分の思い描く姿で朝を迎えられたらこれほど幸せな人生はないのだろう。

一果の母になりたかった凪沙

一果にとって凪沙は性を超えて本当の意味でのお母さんだったんだと私は思う。


予告編です



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