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【コラム】カラオケなしのヒット曲

Netflixで「MFゴースト」を視聴して「イニシャルD」を連想し、楽曲を提供していた「m.o.v.e」を思い出した。m.o.v.eは男性ヴォーカルのラップと女性ヴォーカルを組み合わせたユニットでユーロ調やロック調の楽曲が多かったイメージだ。

イニDのシーズン1のop「around the world」のPVを観て、ふと思った。
これって日本でハウスをやりたかったんだよね?

この曲がリリースされたのが1998年の1月、当時はCDが売れまくっていた。CDの売り上げをけん引したもののひとつがカラオケだった。カラオケルーム数のピークは90年代中盤だったと思う。CDが出る、買う、覚える、カラオケで歌う、のサイクルが一般的だったはず。

CDを売るにはカラオケで歌われることを意識する必要があった。ヴォーカル、特に女性ヴォーカルが売り上げに大きく影響する。そんな状況を考えると「around the world」はかなり野心的だ。女性ヴォーカルのパートが短い(前作はもっと短い)。特に1分30秒くらいまではかなり攻めている(もっと攻めていた前作 m.o.v.e / ROCK IT DOWN)。当時絶好調だったavexの余裕から生まれた曲だったのかもしれない。

PVはモノクロの演出も相まって1990年前後のクラブシーンが連想される。当時のダンスミュージックはユーロ、ブラック(ラップ)、ハウスに大きく3分類されていた。ディスコからクラブへの移行期だった。

「around the world」のプロデュースはt-kimura氏。m.o.v.eのメンバーの一人でもある。氏は1968年生まれ。ハウスの作り出す空間が好きだったと思われる。若いとき絶対好きだったでしょ? あれをやりたかったんだよね?

しかしカラオケとリンクしないと売れにくい。イニDを観る層がハウス好きだとは思えない。そもそもハウス自体がニッチで、地方をメインターゲットにしていると思われるアニメには不向きだったのだろう。m.o.v.eは男性ヴォーカルのラップを残しつつ、女性ヴォーカルがメインの普通の音楽ユニットになっていった。

21世紀も1/4が経とうとしているのに殆どのヒット曲は"歌"のままだ。カラオケで歌われない曲、ヴォーカルが曲のメインとならない曲というのはヒットしないのだろうか。紅白歌合戦に登場しそうもない曲はヒットしないのだろうか。

100年後のヒット曲を聴いてみたい。そこに人間の声はどれくらい入っているのであろうか。未来でも”歌”のままなのだろうか。

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