ガリレオの式、湯川先生の頭の中 その5
湯川先生の頭の中では前項の通り14秒程度で仮説ができたのではないか。しかし思考を整理するために地面に石で前項までの式の一部を書いていた。手を使って式を書く、しかも地面に石で、というのは思考と異なり時間がかかる。湯川先生が書き終えて、左手のポーズで「やっと物理学の領域に入った」と言ったとき、岸谷美沙はつまらなそうに明後日の方向を向いていたので実際の時間は数分程度だったのかもしれない。
前項の球の内部の電磁波の式を用いれば、球に近似した頭部内側の電磁波の強度分布が分かる。湯川先生はフレイ効果(マイクロ波聴覚効果 - Wikipedia)と言っていたので、電磁波によって脳に温度上昇が生じ、これに伴う圧力変化が波となって感覚器官を振動させ、人間が音として認識したと思われる。
「仮説は実証されて初めて真実となる」が信条の湯川先生としては実際に電磁波を送信するデバイスを作る必要がある。工作が得意であり学内で部品を調達できる見込みがあったため「僕に3日、時間をくれ」と岸谷に言ったのだろう。
電磁波の強度は電場の二乗に比例するので(112)(113)(114)を用いて
となるが、これは湯川先生であっても暗算では無理だ。恐らくデバイスを作る前に、周波数の当たりを付けるため軽くコンピュータで計算したはず。
Fig.5のように電場Eと磁場Hは偏光しているとする。人間の頭の直径を19cm、生体の相対屈折率mを1.3として、周波数352MHz(波長852mm)、900MHz(波長333mm)、2.4GHz(波長125mm)での電場の二乗を計算する。変化を分かりやすくするため対数で図示、中心付近は計算精度が悪いので黒丸●で塗りつぶしている。
湯川先生は「頭部との相互作用」と言っていたが、これは頭部内側での電磁波の干渉のことだと思われる。干渉によって頭部内側の電磁波の強度を上げ、温度上昇・圧力変化につなげたのではないか。幻聴の元になる音声情報は送信元の電磁波の強度の上げ下げに乗せる。頭部自体がアンテナとなるラジオみたいなものだ。
ドラマのシーンで見られた352MHzでは干渉は弱い。実際にはもっと周波数を上げ、波長を短くして頭の大きさに近づけないと強い干渉は得られない。真似する人が出てくるのを恐れて周波数を下げたのかもしれない。また電子レンジやWi-Fiの周波数である2.4GHzにしなかったのは不安を避けるとか、電子レンジの原理との混同を避けたかったのかもしれない。Wi-Fi程度の出力では感覚器官を振動させるには至らないだろう。
以上、式と謎解きがリンクするように湯川先生の思考を好き勝手に推測してきました。合っている保障は全くないです。お付き合いいただきありがとうございました。
参考文献
[1] M.Born and E.Wolf, "Principles of Optics: Electromagnetic Theory of Propagation, Interference and Diffraction of Light Fifth Edition", Pergamon Press, 1975.
[2] M.Kerker, The Scattering of Light and Other Electromagnetic Radiation, Academic Press, 1969.
[3] 森口繁一・宇田川銈久・一松信,岩波数学公式Ⅲ 特殊函数,岩波書店,1987.