のらりくらりのひろしさん
学生時代はバイトに勤しんでいたわけだが
当然ながらいろんな人に関わる。
その中で特に印象に残っている人たちを紹介していこうかなと思う。
のらりくらりのひろしさん(仮名)
本名は覚えていない。人生で初めてバイトした職場のタッグを組んでいたおじさんである。
見た目がクレヨンしんちゃんの野原ひろしにそっくりだったので自分の中でひろしとあだ名をつけていた記憶が残っている。
仕事は工場勤務。
年末だけの短期募集でおせちやお寿司を作る。
お米を型枠に詰めたり、流れてくる完成品の検品をしたり、容器を洗ったりするのが仕事内容だった。
なぜかわからないが2人でペアを組むシステムになっていて
たまたま横にいた自分の親ぐらいのおじさんと組むことになった。それがひろしさん。
ひろしさんはとにかくやる気がない。
そして煙草が好きだった。
上司の指示には従う、遅刻もしない。が、
仕事をしてるようで、よく見ると何もしていない。
絶妙なタイミングで『すーさん休憩する?』
と煙草を吸うジェスチャーをしてくる。
ちなみにすーさんは煙草を吸わない。
あくまで休憩しよ!ではなく俺たち2人とも休憩したいよな?と同意を求めるスタイル。
バイト経験がなかったので基本的にこれぐらい休憩するものなのかと思い
多いときで15分に一回休憩していた。
仕事は全然進まない。
すーさんが押し寿司を作るのにお米の量が少ないとか注意されてる横で
ひろしさんはひたすら容器をつけたり外したりしてお米すら詰めてない。
気づけばトイレに行って現場にいない。
ベルトコンベアから流れてくる食品の検品も寝てるのか?と思うほどぼーっとしてたのが印象的
というか寝てた。
だが不思議とひろしさんが怒られることはなく
時間が来たらローテーションという感じで現場が交代していった。
最終的に大きな食器洗い機みたいな持ち場に辿り着き、プラスチックの大きいタッパーを運んできて機械に入れて洗浄、拭いて台に乗せていくという作業。
ちゃっちゃとしてしまおうかと2人で相談して
上流にひろしさん、下流にすーさんというスタイルで作業することに決定した。
開始5分ぐらいで
タッパーが流れてこない
声をかけると返事は返ってくる。
トイレではないようだ。
見に行くとひろしさんは座っていた。
飽きたらしい。素直である。
終わったら煙草吸いましょうということを提案し、そこの現場はやりきった。何度も言うがすーさんは煙草を吸わない。
5日間という短期バイトだったので最終日もすぐ迎えることになり
最後の休憩でひろしさんといろいろおしゃべりをした。
聞くと普段は仕事はしておらず
生活費が少なくなってくると単発のバイトを探す
もともと仕事はしてたらしいがストレスで体調を悪くしてそこから定職にはついてないそうだ。
そんなひろしさんが
最後に煙草を深く吸って斜め上を見ながら煙を吐いた。
そのあとすーさんにかけた言葉
俺な、実は仕事あんまり好きちゃうねん。
うん。知ってます。
最初から知ってます。
たぶんみんな思ってます。
一応、
そーなんですね!気づきませんでした。
あとお世話になりました!
とだけ伝えてその場を後にした。
今になって思えば
すーさんは真面目やから仕事しすぎて体調崩すかもしれんから俺ぐらい気楽に仕事しろよってことやったのかなと思ったり思わなかったり、
そういう生き方もあるのだなと学んだ思い出でした。