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夢にときめかなくなったし、明日はきらめかなくなったけど
僕が通ってた高校には学食に「麻婆唐揚げ」なるメニューがあった。
カレーライスの配分で盛り付けられた白米と麻婆豆腐の上に、拳大の大きさの唐揚げが2個のせられた学生らしいわんぱくなメニューだ。
麻婆豆腐はゼラチン入れてんのかってくらいドロっとしてて、でも意外とサッパリした味付けでサラサラ食べれる。一方、唐揚げがスパイシーでガツンとした味付けなので、少し上品に言うと調和の取れた一皿になっているのだ。
みんな麻婆唐揚げが大好きで、誰が決めたかも分からないラグビー部定位置のテーブルで、下品に食べ散らかしていた。
そんな麻婆唐揚げをほぼ毎日、文字通り貪り食う友達がいた。
いつ見ても彼は麻婆唐揚げを食べていて、シャツの袖を限界までまくり、スプーンをグーで握り、ドラゴンボールの孫悟空のごとくがっつき、誰よりも早く食べて大きな声で「ごちそうさまでした!」を言うのが彼のスタイルだった。
多分彼はそれがカッコいいと思っていた。
僕はそれを見て気持ちが悪いなと毎日思っていた。
そんな彼には麻婆唐揚げ以外にもう一つ特徴があった。
僕らが小学生のとき、Greeeenのキセキでお馴染みのドラマ「ルーキーズ」が流行っていて、その登場人物のひとり市原隼人演じる「安仁屋恵壹」のモノマネが異様に上手かったのだ。
お前毎日麻婆唐揚げ食べててもカッコよくないぞー
うるせぇな!わかってんだよ!
お前安仁屋のモノマネ以外何もできないじゃんかよー
うるせぇな!わかってんだよ!
お前帰れよー
うるせぇな!わかってんだよ!
基本、「うるせぇな!わかってんだよ!」しか言わないのだが、それでも当時の僕らはそれで一生笑ってたし、僕らを笑わせて彼も得意げになったような誇らしい顔をしていた。
その顔と態度を見て僕は気持ちが悪いなと思っていた。
最近、風の噂で彼は仙台で大手の会社員として働いていると聞いた。
3年間安仁屋のレパートリーだけで乗り切った彼が、毎日頑張っていると聞いて、素直にすごいと思ったし、尊敬しかない。
でも、最近車を買ったはいいがディーラーにカモにされてオプション付けられまくったとか、仙台の繁華街に住んでるから駐車場代が都内より高いとか、そういったネガキャンの方がメインの風の噂のようで
そんな彼の最近のインスタストーリーを覗くと、いまだにルーキーズを見て感動しているようだった。
やっぱり、気持ちが悪いなと思った。
先日、ものすごく久しぶりに会った知り合いに、愛のあるお説教をいただいた。
「ファン目線になってもっと頑張らなきゃダメだよね。ただでさえ下のグループなんだからもっと自分たちに何が足りないか自分たちで考えなきゃ。頑張るだけなんて誰でもできるからさ。今シーズンは期待していいんだよね?あははh。」
僕は、そうですね。頑張ります。ありがとうございます。と言いながら、心の中で叫ぶ。
「うるせぇな!わかってんだよ!」
内角高め火の玉ストレート。胸元スレスレを抉る豪速球。そんな正論を言われた時、いとも簡単に反骨精神を奮い立たせてくれる言葉を教えてくれてありがとう。
あー、麻婆唐揚げが食べたい。