ちょっと変?! 教員の働き方改革 その2(教職調整額)
過日の報道で大きくクローズアップされることになった「教職調整額」ですが、一般的には馴染みのない言葉です。そもそも教員・公務員の給与システム自体、一般的に興味を持たれるものではなく、報道で取り上げられるのは「公務員にボーナス支給!」のような場合だけ。この場合でも「ボーナス」という言葉は総称にすぎず、「期末手当・勤勉手当」として支給されている「手当(てあて)」です。「手当」ですから、何らかの実績や条件があって初めて支給されるものです。ところが、『教職調整額』は「民間の残業手当(超過勤務手当)相当として一律に上乗せ支給されている」と説明されますから、「手当てなのに一律とはどういうこと?」と、「もやもや」したものを感じてしまいます。
昭和40年頃、多くの都道府県で教員に時間外勤務手当の支給を求める訴訟が提起され、社会問題となりました。「教職調整額」はこのような背景をもとに、昭和46年の人事院提言を受け、「国立の義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する特別措置法(以下「給特法」という。)」の成立により、昭和47年1月より支給されるようになりました。この「給特法」には「教員には、勤務態様の特殊性があり一般行政職と同じような勤務時間管理はなじまない」「教員については時間外勤務手当を支給しない、その代わりに給料月額の4%に相当する教職調整額を支給する」ことが明記されました。ただし例外として、時間外勤務を命じる場合は(1)生徒の実習に関する業務(2)学校行事に関する業務(3)教職員会議に関する業務(4)非常災害等のやむを得ない場合の業務、の4項目に限定する(いわゆる超勤限定4項目)という項目も加えられました。
つまり、①『本来「時間外勤務(超過勤務)」は上司に「命じられて」やるものだが、教員の勤務にはなじまない』⇒②『だから、「教員には時間外勤務は命じない」代わりに、時間外勤務手当相当分を「教職調整額」として支給する』⇒③『例外的に時間外勤務を命じることはある(限定4項目)。でも手当ては支給しない。』という仕組みができあがり、現在まで半世紀以上も続いているのです。
「4%」という数字は、「小・中学校教員の時間外勤務時間は平均1時間48分」という昭和41年の文部省調査が根拠になっています。1週間の勤務時間が44時間(8時間×5日+土曜日4時間)の時代ですから、割合を計算すると4%となります。いわば実態に合わせたわけです。それでは今はどうか?ある教育委員会の調査(令和5年度)によれば、1週間あたりの時間外勤務時間は小学校教諭が約14時間、中学校教諭が約19時間、とあり、50年前とはかけ離れた数字になっていることがわかります。実態に合わせて支給率を見直すとなれば、10%どころか30%の支給でも足りません。
また、「教職調整額」は教諭だけでなく、ほとんど時間外勤務の実態がない実習助手や寄宿舎指導員などの教育職員にも支給されていることはあまり知られていません。さらに、教職調整額は『給与の一部』として期末・勤勉手当算出の基礎額に含まれています。このため、年間にすると約17ヶ月分の支給となり、平均すると毎月6%弱の支給がなされているという見方もできます。このように、「教職調整額」には『毎月の支給率「4%」』だけではわからない実態や背景があるのです。
教員の勤務状況も学校を取り巻く状況も50年前とは大きく変わっているのに、教員の給与支給の根本的な仕組みは50年前のままでした。今回の報告がこの仕組みに踏み込まなかったことで、新聞の論調が「給特法廃止踏み込めず」「教員残業代なし 継続」「抜本改革見送りに疑問も」などと否定的になるのはわかります。しかし、半世紀以上放置されていた「教職調整額」に踏み込んだ報告がなされたことは大きな一歩であることは事実です。これを抜本的な給与体系の改善に繋げていかなくてはなりません。
教員が教員らしく、生き生きと教育活動に邁進できるよう、ふくれあがった教員の業務と時間外勤務の実態を受け止め、勤務の在り方と抜本的な給与体系の改善に向け、関係者が知恵を出し合い、具体的に行動するときです。特に学校現場の先生方、積極的に声をあげ、頑張ってほしいと思います。
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