2024/2/4 フローレス&イェンデ オペラデュオコンサート

 スーパースター、フローレスとイェンデのコンサートは一度聴いとかなければならないという想いで急遽2日前にチケットを購入し、関西から上京することになった。とはいえ、今でも本場で活躍しているもののフローレスはピークを過ぎた歌手。そのうえ、普段オペラのメドレーみたいなコンサートにいくことはない。お金を払った価値があるのか、ワクワクと不安が入り交じりながら東京に向かう。

第1部

 最初の曲目は「ラ・チェネレントラ」序曲。どうも某在京オケがポンコツでパッとしない。リハーサルが足りなかったからなのか、元々オケのレベルが低いからなのか、金管は先走るわ、弦は一体感がないわで先行きが不安になるオープニング。

 次の曲は、序曲の歌劇からフローレスのソロで1曲。フローレスを生で聴いたのは初めてだが、出だしから調子がよさそうではないことを感じた。とはいってもまだ前半の1曲目であり、セーブしているということもあり得る。

 フローレスの次はイェンデのソロだったがこちらは度肝を抜かれた。壁を貫通しそうなくはいとても声が透き通っていて、ホール全体に満遍なく響きわたらせていた。イェンデの歌声は歌声で体が包み込まれているかのような感覚になる。拍手も1曲前のフローレスとは全く違う大喝采。

 そんな感じでイェンデの凄さを感じていると、曲終わりしばらく間があき、フローレスの喉が不調で咳き込んでて、、、ご理解ください。みたいなアナウンスが入った。正直、終わってみれば誤魔化しきれるほどの不調だったと思うが、フローレスの誠実さが窺える。

 オケのポンコツ具合は最初の序曲以降、気にならなくなり、フローレスも万全ではないながらも全力で歌ってくれてフローレス、イェンデそれぞれのソロ、そしてデュオの世界に惹き込まれていった。先ほどイェンデは包み込むような歌声と述べたが、一方でフローレスは耳元で囁いているかのような、なぜか存在が近くに感じる甘い歌声である。不思議なことにフォルテでもピアノでも近くでささやかれているように感じるまた、フローレスは1stVnに寄り添ったり一芸もはさみつつ歌詞を紡いでいく。まさにエンターテイナーだと感じさせられた。一つ気になったことは、フローレスが高い音を出す時、私がいる上手側ではなく下手側ばかりを向いていたことである。

第2部

 休憩を挟み、まもなく第2部がはじまるというところで再度アナウンスが入る。ラストのフローレスソロ、「連隊の娘」の曲目を変更するといった主旨の報告である。まあ、あの曲はハイCも出てくるので仕様がない。残念だが、代わりに何か歌ってくれるだけ有難い。

 第2部の前半はグノーの「ロメオとジュリエット」より数曲。ロメオとジュリエットを題材にした作品は、プロコフィエフのバレエ音楽やチャイコフスキーの幻想序曲を筆頭にさまざまな作品がある。グノーのロメジュリはそれらに比べて陰に隠れがちだが、素晴らしい作品であることは間違いない。

 今回のコンサートでは、2幕の間奏曲から、フローレスのソロ、イェンデのソロ、フローレスとイェンデのデュオとグノーのロメジュリが続いた。それぞれの性格や情景にあわせた素晴らしいグノーのロメジュリで、そのうえフローレス(万全ではないうえ、多少咳き込んでいるが)とイェンデの歌声も絶品である。また、抱き合ったり手を繋いだり聴覚のみならず視覚も飽きさせないパフォーマンスだった。

 ロメジュリの次は、まちにまった「連隊の娘」。ここでも作品にあわせて抱き合ったり、敬礼したり、指揮台に上ったりしながら妖艶な歌声を響かせてくれた。フローレスも明らかに調子が上がってきている。

 変更になり、急遽歌うことになった「愛の妙薬」より1曲を終え、大喝采のなか、指揮者とあわせて3人は花束を袖からでてきたスタッフから受け取る。なんとフローレスはその花束を最前列にいた観客にプレゼントする。フローレスはとことんプロフェッショナルで、サービス精神旺盛なエンターテイナーだった。

 アンコールはまずイェンデから。それまでのオペラとは打って変わって、英語のポップス調の曲を華麗に歌いこなす。

 続いて、お待ちかねフローレスによるギター弾き語りである。なんやかんやで4曲くらい弾き語りしていたと思うが、「蛍の光」などユーモアに富んだ選曲で、オケがいない分、フローレスの全身全霊の素晴らしい(といっても万全ではなく多少咳き込んでいる)歌声がより際立ってよく聴こえて天上に上ってしまいそうなくらいだった。

 最後は再びイェンデも登場し、ラ・ボエームの有名な二重唱。2人のラ・ボエームが観たいなと上演中、にわかに思っていたため、もう一音目から感極まってしまった。

 はじめはフローレスをイェンデが補っているような状態だったが、なんやかんやでどちらも最高のかけがえのないコンサートになり、心から観に行ってよかった。最高のコンサートだったことは、1階から最上階の5階まで総立ちで拍手喝采だったことにも表れている。あの空間でのひとときは一生忘れないだろう。


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