加賀日記③ 能登
私は能登に日本の原風景を見る。
金沢の後は能登へ。
金沢から普通電車に揺られて1時間ほど。能登中部にある中能登町を訪れた。訪れる度に思うが、能登は田園風景が美しい。東北のそれとはまた違った美しさを感じる。日本海が近いからか、黄昏時になると山や田が夕日で赤く照らし出される。
訪れたのは9月中旬。稲穂が揺れ、早くも稲刈りが始まっている時期だった。
また能登は夜空が美しい。普段は夜空など見上げる機会がそもそもないが、真夜中に外へ出ると、頭上の夜空いっぱいに星空が広がっている。それでもまだ少し明かりがあったので、もっと暗いところに行けばもっと星空を楽しめるかもしれない。
能登は日本の原風景だ。美しい自然、農業や漁業と共にある人々の営み、今も残る信仰、親切な人々。こういう場所はいつまでも日本にあってほしい。無くならないで欲しいと願うばかりだ。
ところで中能登町には石動山という霊山がある。かつては大変立派な霊場として方々から信仰を集めた聖地であったが、室町時代や戦国時代に焼き討ちに遭い、遂には衰亡した大寺院跡である。今回は石動山には行かなかったが、その霊場と縁のある場所を訪れた。
それが中能登町の不動滝である。町の中では用水路のようになっている熊野川を上流に登って行くと、不動滝はある。途中には熊野神社があり、滝が御神体として古くから信仰を集めていたことが分かる。
熊野神社に参拝してから更にしばらく川沿いの山道を登って行くと、不動滝が現れる。
なかなか立派な滝である。この滝は石動山に連なる霊場として栄えた場所で、修行僧や修験者が修行する場所であったらしい。今は看板と慎ましい拝殿が残るのみ。行った時は人気もなかった。
とても綺麗な水であったので、滝で手足を清めた。とても冷たい水で、心が洗われるようであった。
滝に背を向け手を合わせると、ちょうど目の前に不動明王の石像があった。少し驚いたが、かつての修験者たちも同じように手足を清めていたかと思うと、まるでタイムスリップして、昔の姿を追体験するような、不思議な気分になった。
晩夏ということもあり、蚊にたくさん刺されたが、それ以上にとても気持ちの良い場所だった。
実は今回、2日ほど中能登の道の駅で友人が経営する定食屋を少しだけ手伝った。飲食店で働いた経験などないので、接客や皿洗い、仕込みをするにも大変おぼつかないものであったが、なんとか手伝いを完遂することができたので目標達成である。
また仕事終わりに日帰り温泉にも行った。和倉温泉の公衆浴場の「総湯」や、羽咋市にある「ユーフォリア千里浜」はなかなか良いお湯で、しかも安かった。思いがけず能登の温泉を満喫することもできた。
温泉を楽しむもよし、少しニッチな歴史を楽しむもよし。能登ではのんびりと何もないことを楽しめる。それに町の人たちは優しい。それが能登の魅力なのかもしれない。
追記:道の駅の定食屋さんは美味しいです。野菜の直売所も兼ねているので、近くに行かれた際はぜひ立ち寄ってみてください。