詩「歯列イール」
現代詩手帖2023年5月号選外佳作(小笠原鳥類選)
歯列イール
栫伸太郎
頭を左右にちゅうくらいに振りながら
いづれかの椎骨とまっすぐな散歩にでかける
三倍体の僕の部屋には三倍体の(側切歯状の)
じゃがいもみたいな何かがオニヒトデ
の中身を抓るように放射状に増殖し続
けている あるいは自らの側扁な虹彩の中身
を運びこみ
続けている、米の鱗のようなクエ、
ミゾゴイその他蟠った車道外側線の軽妙な裸
を沈着させたウロコタマフネガイ「海は私の
(内臓でありむしろ自らの罅の」内に私は
存在する)のような後退灯のフナ尾の
ハイイロオオカミの「表面積は小さいほうが
いいから」の串刺しの雪、正中線
は僕より僅かにちいさく揺れている
EEL EELのように小糠雨は具足虫の
顫える貪婪な天蓋を濡らし続け、小糠雨は
仄白い
具足虫の顫える貪婪な天蓋に
受け入れられ続け 具足虫の青褪めた
顫え靡く鷹揚な天蓋に叢がり続ける、それを
頭のなかで作りながら準えて、首の右側の
筋肉の奥の方に僕の周到に撚られた
四つの瀑布がある
暁闇のライオン
驟雨の(ライオン)、堆く積まれた肉鰭
の幽霊の(それを毎年
僕は買っては)
のライオン
の畝
は低く
日差しを
束の間
黝くしめやかに
裂いて
蠕動する
拉げた
蹠
の懶惰な
予感、
その
峻険な空気が
萼のように
縁取る
耀う
舌であった
脹れる擡げる、擦奏する陸地の
轡、輪っかをいくつか潜ると
皺一つ分遅れた朝が
もう蹲って噎せている塒
畝 蜈蚣、深更の贅肉
腥い輪郭を無限遠(の宇宙の蟷螂の果ての無
のサビイロネコの無)に連れ去られて
裂け目の馭者あるいは
佇み抉られていく胡乱なふくらみ
ぐらぐらしながら痩せていくの
昨日と違う輪郭だけが遠くで眠っているのを
聞かされる
キンクロハジロに
鳥はやわらかい隧道
土、縺れる多面体=縹渺としている
chutzpah眠い、出血毒のカバが夜中に
陸の草を食べ
みたいな広幅員道路
思えば
僕の体の中に幾つも階段があって
ものを置くこともできるけど置かない
(水分を吸い繊維を吐き出す、斑、蝦
また夕方みたいな万国旗みたいな鳥が迫って
くる(消防吏員、唾、沿岸
僕はもう攀じ登り切っている
ただ濡れていく
黒くなっていく
昏く(低音で融けあう鈍いきうきうという音
きうきう水かきが焼かれて縮んでいく
水平線に
鱗のように置いた
疚しい橙色の電熱線
黒鍵
十円玉がどこかに落ちた
まーもっとの高い鳴き声
漂い、澱む 雪のなか
なぞられた雪の上を
惹起する
畳む
波が引いていく
(2023.3.18)