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バラード未満の貴方の温度
まずはご紹介から。
あ、朝、目が覚めたら
私じゃない 嘘みたいだ
あ、何処からか溢れ出している
蜜の香りが私を誘い込んでいる
裸足で何処まで往けるかな
海の向こう 天国へ
ほらもっと遠くに拐って
底無しの愛に沈めて殺して
ないものばっか望むから
ほら私の手を引いて
優しい声でこの罪ごと認めて
私だけの天国へ
貴方だけの天国へ
あ、朝、目を開けば
頭の隅、貴方があった
どうしても余してしまう広いテーブルで
少し焦げ付いたパンを
ただ、齧っている
散らかした日常を棚に戻して
喩うならば、午後の陽だまりが
私の足を遠く 遠く 運んでゆく
何処へ行こうか
出窓の写真の右隣
花瓶に挿し、天国へ
ほらもっと上手に笑って
綻んだ春を横目に映して
愁い事ばっか探すから
今、貴方が手を引いて
間違いだって今だけ目を瞑って
ねぇ、裸足で何処まで往けるかな
雲の向こう 天国へ
ほらもっと陽気に歩いて
足下の徒花も踏み潰して
悪者なんていないから
また私の手を引いて
苦しい事だって一つも厭わない
私たちの天国へ
二人きりの天国へ
あ、朝、貴方の声
いつかの夢の中みたいだ
え、何? と不思議そうに笑っている
貴方の顔が少しばかり霞んでいる
こちらの歌に魅入られて、少しだけ文を書こうと思います。書き起こしってやつですね。少しだけお付き合い下さい。
ゆったり流れていく時間が好きだった。
うとうとしながら揺れる優しい木漏れ日を見つめてそっと、目を閉じる。
五感が研ぎ澄まされる気がしてとても息がしやすい。
黒い、暗い中で、うっすらと聞こえる鳥のさえずりや、少しだけ鋭く冷たい秋独特の空気、鼻に少しだけ刺さるような繊細な風が自分を包んでいる気がする。
その日は自分の中で凄く気分が落ちていた。それもガクン、と落ちたのではなく、ゆるやかにおだやかに自己嫌悪が健常な精神に入り交じっていく。
珈琲に垂らしたミルクがぐるぐると渦巻き、そして色が溶け合う。そのような感じで、どんどん自分の気分が混ざっていく。
遂に底辺付近を漂っている私の精神は限界を迎えたのか、ベテランの歴史の先生が絶賛ブラックジョークをかましているときに、何故か涙が頬をずっと伝うようになった。これはまずい、と悟った。
作り笑い、愛想笑いを他の人に向け、保健室へ逃げ込んだ。そして早退させてもらい、ゆっくりと歩いていく。帰り道を昼に歩くのは少しだけ罪悪感があって、でも、ここで罪悪感を感じるとまた死にたくなってしまうので、心が罪悪感を感じないようにベールがかかっていた。
少しだけぼんやりしている自分には色々とワケがあって、精神が限界を迎えているのにもワケがある。それを分かった上で、脳が思い出したくないとシャットダウンする、そして思い出すときにこのように涙を流したり、自己嫌悪に陥ったり、鼓動が早まったりということが起こる。それも頻繁に。所謂トラウマというものであった。
そのトラウマを思い出す度に、泣きそうになってしまう。泣くのはあまり好きではなかった。泣ける時に泣いた方がいいのは分かっているが、伝う涙は留まることを知らず、遂には襟を濡らし、そして嗚咽。
ふ、と。
イヤホンを耳につけ、また【あの曲】を流した。
『あ、朝、目が覚めたら』
最初の声が聞こえると少しだけ鼓動がゆっくりになっている気がした。緩やかで穏やかで少しだけマイナスな歌詞。それなのに、音が優しい。バラードとはまた違う穏やかな優しさを感じる。
バラードは優しすぎる。私にはバラードが優しすぎるのだ。あんなに優しいピアノで、あんなに優しい声で、涙腺を詰められてしまってはどこで決壊するか分からない。弱い私はすぐに決壊してしまう。バラードはそのトリガーになりかねない。
でもこの歌なら。
優しい、穏やか、なのにプラス過ぎず、マイナス過ぎない。そんな音が耳を包んでくれる。
そのとき、さあっと、私の頬を秋風が撫でてくれた。
それは頬を伝っている涙を拭ってくれる誰かのハンカチのようだった。
こういう曲を探していたのだ。
バラードより少し冷たくて、バラードより少しプラスで、寄り添い過ぎず、それなのに遠からず。まるで冷たい秋風の中に見る、あの優しい木漏れ日のような。そのくらいの温度。
バラードを100%否定しているのではない。寧ろバラードは優しくて寄り添ってくれてとっても暖かい。曲なのに人間の情や温かさ、感情を齎してくれる。
私が、私自身が、この曲が好きなのである。
私がこの曲を好きな理由が『バラード未満のこの曲の温度が心地良いから』なのである。
僕は優しくて、暖かくてどこか冷たい音に包まれながら、どこか憂鬱だった下がっていた気分がまた少しだけ緩やかに穏やかに上昇し始めるのを感じながら、枯葉を踏み抜いたのである。
この曲は僕の憂鬱な日を寄り添いすぎることなく、暖かく優しく穏やかに包んでくれる。素敵な曲なんです。
とても好きなので皆さんも是非聞いてみてください。
どこかで目を瞑って脳裏に浮かぶ貴方のことを、貴方の温度と、貴方の声を思い出す日をきっとまた。