憧れのファミレス、COCO'S。キチンとおいしいキッチンだよ。
ドラえもんのアニメを見ていると、十五分くらいでオチがついて一区切りがくる。続いてスポンサー企業のCMが流れてくるのだが、この中にCOCOSのCMがあった。
”てててんてぇン”というちょっとインドチックなイントロと共に、コック帽を被ったドラえもんが登場する。眼の前には銀の包み紙が置いてあって、それがゆっくりと膨らんでいく。ドラえもんが「んん?」と訝しげな声を上げた後、香りを吸い込むような仕草と同時に「うわぁ~!!」(当時は大山のぶ代さんの声である)と歓喜の声を上げるのだ。ポン!膨らみきった銀紙をよそに、ドラえもんが何故かケツを振る。そしてここからだ。どきどきどっきん!どきどき!と軽快なリズムが流れだし、目の前にはじゅう~~~と焼き音を響かせるハンバーグ!!デミグラスソースをたっぷりかけられるハンバーグ!!!ドラえもんがよだれを垂らし、「どきどきどっきんCOCOS!」との掛け声と同時に、いよいよ銀の包み紙がはじけるのだ!「どらどらぁ!」ミニドラが飛び出し、中にはびっくりするほど美味しそうでジューシーそうなハンバーグの姿が!!!「COCOSの包み焼きハンバーグ、だぁい好評!」ドラえもんが宣伝をする。ぱっくりと割れるハンバーグ。中から出てくる肉汁!たまらねぇなぁ!!!!!!!!
そこまで見せられた後、ドラえもんはこういうのだ。「キチンとおいしい、キッチンだよ!」こーこにおいでよ。COCOS!
今では夕方5時に放映時間が変わったドラえもんだが、かつては19時~19時30分にかけて放映されていた。その後はクレヨンしんちゃん。まだしんちゃんがケツをみせ、みさえがゲンコツを浴びせていた時代だ。
当時は社会的にも労働時間が伸びつつある時期で、この頃の子供たちといえば、晩ごはんが19時以降だということはザラにあった。
『生活時間分析による食事時間の遅延 ・ 分散化について』という論文には、1941年頃の日本人小学生は平均的に18時に食事をしていたようだが、これが2000年には19時を超えるようになっているとのデータがある。つまりドラえもんが「キチンとおいしいキッチンだよ!どらどらぁ~!!」と言っていた頃、平均的な小学生はお腹をすかせていたか、ギリ食事にありつけていた時間だということだ。
そんな時間にだ。こんな美味しそうなハンバーグ(しかもCMの出来がやけによかった)を見せられた小学生はたまらない。しかもCMが3回くらい流れることもあった。腹が減ってしょうがない小学生にダイレクトアタックをかましているのである。
小学生は当然こう思う。「COCOSいいなぁ。いってみたい」しかし悲しいことに、COCOSがない地域もある。2000年のファミレスといえば、やはりサイゼリヤやガストの勢いが凄かった。まぁジョイフルという見方もあったが、もっぱらはサイゼやガストなのであった。そんな中にいた小学生たちは、「なぜ我が地域にはCOCOSがないのだ。しかも、ファミレスいきたい!と言ったら我慢しなさい!と怒られるし。たまに両親の気分がいい時に連れて行ってくれる先もサイゼである。不自由だ。子供はいつだって不自由を感じている!」と思っていたに違いない。はやく大人になりたいと思っていた子供たちのおよそ九割は、COCOSに行きたかったからなのであった。
しかしそんな小学生達も大人になり、ファミレスにいくよりも高級な飯屋や居酒屋に通うようになる。「世の中ってこんなにうまいものだらけなんだぁ~焼き鳥ウメ~」となって、COCOSの包み焼きハンバーグの事は皆忘れていってしまうのだ。忘れながら、皆大人になるのだ。
ただそんな中、ふとドラえもんを見る機会があったとする。いつものようにだいたい15分でひとオチついて、スポンサー企業のCMが流れ始める……その時だ。
「みんなでこっこっすぅ~!!!」
ドラえもんの軽快な声(CV:水田わさびさん)が聞こえる。ハッと顔をあげると、「はぁ~お腹すいた~」とのび太がふんにゃりと言う(CV:大原めぐみさんである)そして次々に登場するクソうまそうなハンバーグの数々!ビーフハンバーグステーキとか!
それを見て思い出す。童心を。かつて憧れていた、だが行くことのできなかった憧れのファミレス『COCOS』を。
翌日、私は『COCOS』へと向かった。友人に車を出してもらって。ありがとうございます。
店内は和気あいあいとしている。お客さんも多かったし、通路を移動している配膳ロボットはかなり効率化されていた。なんかこの前行ったお店は、配膳ロボットのそばに人間がついてきて最後の配膳は人間がしているという訳分からん状態だったが、COCOSでは配膳ロボットだけにまかせているのだ。なんと未来的なことか。子供ウキウキポイントである。
テーブル席につき、ハンバーグを注文する。もちろん注文するのは憧れの”包み焼きハンバーグ”だ。しかもチーズがINしている。いいのか?こんな贅沢して。いいんだよ!私はもう、大人なのだから。
そわそわしながらしばらく待っていると、いよいよロボットがハンバーグを運んできた。「うわぁ!じゅうじゅういうとるわ!あっつあつそう!!この包み焼きどうやってあければいいのかな!?」この時の私は完全に小学生だった。
ナイフをそっといれてみると、包み焼きの銀紙についてた切り取り線がスっと開帳する。中からはもわっとハンバーグの香ばしいにおいが辺りに広がる。隣の席の人も頼んでたからもう広がってはいたが、それはそれとしてまた広がった。二倍だ。
次にナイフをハンバーグに振り下ろす。
ここだ。
ここがハンバーグという料理においてもっとも重要な点。そして、COCOSというファミレスが”キチンとおいしいキッチン”なのかどうかの明暗が分かれるところである。
じゅ……わぁ……。
広がった。私は思わず頭を覆った。おーまいが。こんなに肉汁とチーズがぶわっと綺麗に美味しそうに溢れ出すことってあるんだぁ~。あまりのできの良さに、私は腹の虫を抑えることができなかった。「はぁ~お腹すいたぁ!」心の中にいるのび太(CV:大原めぐみさんである)が騒ぎ始める。わかった。のび太、すぐにおさめてやる。腹の虫を
一口。
口の中は天国とかした。どらどら~~~!とミニドラが出てきた気分だった。キチンとおいしいキッチンだった。マジでうまい。ハンバーグ史上でトップクラスのうまさだった。
夢中で食った私は、満足気に腹をさすった。なんか結構安かった気がするのに腹がめっちゃ張った。そういう点でも満足だ。
COCOSに小学生が来たらこう思うだろう。「こんなにおいしいハンバーグってあるんだ……しかもお腹いっぱいになっちゃった……大人ってすごい。COCOSってすごい」そう。子供をCOCOSに連れて行くことは、大人が尊厳を取り戻すことにもつながるのである。
COCOS。それはすごいファミレスだった。
こーこにおいでよ!COCOS!
皆も行ってみて。